これがキスだと知らなかった。





唇が離れても何故かいつも鼓動が収まらない。

地毛が茶色く、少し伸びて目にかかった前髪から映す
晴兄の長く伸びたまつげ
茶色がかった綺麗な瞳が私を映す。


「えらいね仁菜」





そう言うと晴兄はまたお箸を手に取った。

お箸を持つ繊細な白くて長い指は綺麗だ。


晴兄の薄くて柔らかい
唇の感触がまだ残っていた。

だけどその"おまじない"のおかげか、
なんだかまた元気が出るのだ。









小さい頃から晴兄は私にこうして
"おまじない"をかけてくれた。



幼稚園の男の子にいじめられたとき
お母さんに叱られて泣いているとき
大事なおもちゃを失くして泣いているとき
雷が怖くて布団にくるまりながら泣いてるとき



昔から口数の少ない晴兄だけど、
いつも晴兄は泣き虫な私の事を守っていてくれた。


元気がでるようにって。


そんな晴兄が大好きで、私はいつも助けてもらってばかり





だけど私はこの"おまじない"がなんなのか、
まだ知らずにいた。
















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