これがキスだと知らなかった。
だけど晴兄は私のことは何でも解るみたい。
「無理に笑わないで..」
フワッとした感覚、晴兄は私を抱き寄せた。
パーカーからは柔軟剤のいい匂い。
同じ柔軟剤を使ってるはずなのに、なんだか落ち着く。
私を抱き締めるその腕の中はすごく優しくて、温かい。
「ありがとう、晴兄」
わたしもぎゅっと抱きしめ返す。
そしてまたフワッと香る晴兄の匂い。
すごく心地よくて、さっきまでの嫌な事も忘れられる。
「仁菜は...
俺の大事な女の子... 」
私はその言葉の意味すらもまだ分かってなかった。
晴兄は晴兄で、お兄ちゃんであって家族。
家族が家族を大切にするなんて普通のこと。
「私もだよ...
だいすき」
晴兄はまたフッと笑って、わたしの唇に触れた。
柔らかい感覚と高鳴る鼓動。
まただ...
これは一体なんなんだろう。
「ずっと、俺の仁菜でいてね」
それは小さい頃にした約束。
15になった今でもずっと覚えてる。
わたしの大事なお兄ちゃん。
誰よりも大好きな人
晴兄の腰に回した腕の力を
ぎゅっと強くした。
晴兄はわたしを抱きしめたまま頭を優しく撫でながら
何も言わずに側に居てくれた。
そのままわたしは眠ってしまってたんだ。
なんだかすごく温かくて優しい気持ち。
だけどその日の目覚めはあまり良いものでは
無かった。
なんだか寂しいような。悲しいような。
思い出せないぼんやりとした夢
夢の中でわたしはずっと何かを探してた。
ずっとずっと、
暗闇の中で何かもわからない何かを探してた。