命が別れるそのときまで
捕まえた手首を引き、抱き寄せる。包み込んだ細い身体が抵抗されないからといって、こちらが望むものじゃないことなど解ってるけど。
けど。
震える声が、耳と胸に響く。
「あなたとそうなることが一番辛いかもしれない」
「そうかもな」
「今までだって平気だったわけじゃない」
「知ってる」
「私が、駄目な人間なの」
「お互い様」
「きっと、私ばっかりが楽になるのよ。そんなの……」
「たくさん、ずっと考えて、それならいいと思ったんだ。それしか思えなかった」
「……」
「辛くないなんて、言わないけど」
「でも」
「忘れなくていい。いつか、少しでも思い出になったら、そのときの今に、俺を入らせてよ。全部思い出になったら、過去はくれてやるし大切にするから、俺にそれからをくれ。他の男になんて渡してたまるか」
「そんなの……三年後五年後十年後かもしれない。どうしようもない私は、明日かもしれない。……死ぬときかも、しれない」
「それは、命の別れるそのときまで一緒にいられるっていうことだから」
だからどうかと、赦しを請うた。
――END――