金木犀
俺は信用されてんだと思ってた。
奈々の事になると血相変えること知ってたけどさ。
奈々をどれだけ大事にしてるかとかも知ってたけどさ。
俺だからイヤなんて、ショックじゃん・・・・
黙り込んだ俺に気づいたトヨさんが
「わりぃ、言い過ぎた。」
小さく謝る。
この人のいいところ。
後輩だろうが、なんだろうが、悪いと認めるとちゃんと謝る。
「いや・・・俺も、すみません、調子に乗りました。」
だから、俺も素直に謝れるんだ。
「はぁ・・」
トヨさんは小さくため息を付き、俺を向く。
その顔は、今まで見たことないぐらい寂しそうだ。
「嫉妬だよ。正直。」
「へ?」
苦笑いのトヨさんは続ける。
「俺、奈々に始めて会ったの奈々が5歳の時なんだ。いつも奈緒にくっついててさ、スゲー俺邪魔者で。奈緒のこと本気で好きだったし、いっつも奈々に邪魔されてたけどさ、全然イヤじゃなかったんだ。」
昔の話をするトヨさんはいっつもスゲー優しい顔になるんだ。
「そのうちさ、奈緒振り向かせるより、奈々に懐いてほしくなって。俺、奈々に会うために奈緒んち行ってたんだ。」
小さいころに両親が離婚したって聞いた。
母親は娘二人を食わせていくために必死に働いて。
奈緒さんは高校生で、まだ保育所に通う奈々の母親代わりになった。
高校生らしく友達と遊んだり、スポーツしたり、勉強したり。
そんなことは一切諦めて、奈々を守ることに必死だった。
父親が居なくて、家には奈緒さんしか居なくて、それでも奈々に寂しい思いさせないように必死だった。
だから、トヨさんの気持ちもわかってたけど、答えることが出来なかったって。