金木犀
けいちゃんからのメールを待ってる携帯はずっとポケットにある。
でも、ここまで来て、手が動かない。
いつも忙しそうにしてるから。
寝る時間も惜しんで、ご飯食べる時間も惜しんで仕事してる。
そんなけいちゃんを知ってるから。
「やっぱいいや。」
夢中になってる仕事を中断させてまで、会うことなんてできないや。
たまにしてくれる仕事の話は、難しすぎてちんぷんかんぷんだけど、いつもけいちゃんは楽しそうだった。
忙しくても、大変でも、仕事大好きなんだってわかる。
邪魔になりたくないんだ。
会えないぐらいで、鬱陶しく思われたくない。
「いいの?」
ビルに背を向けた私に心配そうに声をかける由花。
「うん。平気。このビル見たら、ちょっと平気になった。」
このビル見て、けいちゃんが仕事好きだってこと思い出した。
「帰ろっか」
そう言って、ビルを見たとき。
一階のカフェに入っていくけいちゃんを見つけた。