金木犀


けいちゃんからのメールを待ってる携帯はずっとポケットにある。



でも、ここまで来て、手が動かない。



いつも忙しそうにしてるから。



寝る時間も惜しんで、ご飯食べる時間も惜しんで仕事してる。



そんなけいちゃんを知ってるから。



「やっぱいいや。」



夢中になってる仕事を中断させてまで、会うことなんてできないや。









たまにしてくれる仕事の話は、難しすぎてちんぷんかんぷんだけど、いつもけいちゃんは楽しそうだった。


忙しくても、大変でも、仕事大好きなんだってわかる。




邪魔になりたくないんだ。



会えないぐらいで、鬱陶しく思われたくない。








「いいの?」


ビルに背を向けた私に心配そうに声をかける由花。



「うん。平気。このビル見たら、ちょっと平気になった。」


このビル見て、けいちゃんが仕事好きだってこと思い出した。








「帰ろっか」


そう言って、ビルを見たとき。












一階のカフェに入っていくけいちゃんを見つけた。




< 42 / 51 >

この作品をシェア

pagetop