金木犀
ずっと待ってた。
ずっと、ずっとこの電話が鳴るのを待ってた。
海斗がいる教室を飛び出し、階段に座り込んで、震える手で、通話ボタンを押した。
「もしもしっ・・・」
自分でもびっくりするぐらい泣きそうな声が出た。
「奈々?」
優しい、低い、大好きな声。
「奈々?今どこ?」
耳に届く声が、嬉しくてたまらない。
だって、今、けいちゃんが私のこと考えてくれてる。
「ガッコ・・・」
ケータイを握り締めて、小さくそう答えると、
「よかった・・・今俺奈々の学校の前に居るんだけど。。。」
「えっ?!うそ!」
びっくりした私の声を聞いたけいちゃんは声に出して笑って
「はは、嘘じゃないし。待ってるから、降りてきて」
「うん!!」
昇降口には、下校時間を少しすぎてるけど、ちらほら人がいて、
運動場では運動部の部活が始まってる。
そんな中、ひと目も気にせず、急いで校門へ向かう。
「あれー?奈々帰りー?」
下駄箱を過ぎたところで、部活に向かう絵里ちゃんとすれ違った
「うん!バイバイ!」
走る足を止めず、それだけ言う。
「ばいばーい」
絵里ちゃんの声を背に、私は走る。
何人か生徒が見てる。
そんなことも気にせず、
門から少し離れたところに止まっている、黒い大きな車に向かって走った。