触れられないけど、いいですか?
「……っ」
せっかく、涙、我慢してたのに。
そんな風に言われたら、堪え切れないよーー。
「うぅ、う……っ」
「さく……あっ」
「え?」
慌てたように、突然私から離れる翔君。
状況が分からず、とりあえず振り向いて彼を見つめるけれど、彼はやっぱり慌てていて、私は首を傾げる。溢れ出そうになっていた涙も少し引っ込んでしまった。
「翔君?」
「いや、ごめん。引き止める為に咄嗟だったとはいえ、不意に抱き締めてしまって。
気分、悪くなったりしてない?」
「え、あ……」
なるほど、それを心配してくれたのか。
「大丈夫だよ、気にしないで」
「そう? それなら良かった」
「私ね、翔君なら平気になったみたい」
「え?」
「手を握られるのも、抱き締められるのも。少しずつ慣らしてもらったからかな、翔君に触れられるのは大丈夫になったよ」
「ほんと?」
「うん。まだかなり、ドキドキはするけど」
平気になった、というのは本当のことで。
他の男性に触れられるのはまだ絶対に無理だけれど、相手が翔君なら触れられるのは怖くない。
……ただ、〝少しずつ慣らしてもらったから〟という適当な理由付けをしてしまったけれど、これは嘘だ。
慣らしてもらったからではない。
〝相手が翔君だから〟だ。
大好きな相手だからこそ、信頼出来る人だからこそ、自分の全てを委ねられる。