触れられないけど、いいですか?
私の言葉に、翔君は「そっか」と嬉しそうな顔をする。そしてその表情に、私も同じ様に嬉しくなる。

……ついさっきまで、今後の人生を左右する程の真剣な話し合いをしていたのに、急に気持ちが軽くなるのを感じる。


……そうか、私、不安だったんだ。


家族のこととか、会社のこととか、それっぽい理由を並べて自分を正当化していた。勿論それらも大事なことではあったけれど、自分が一番不安だったのは、きっと本当はそれじゃなかった。


翔君の一番が、きっと自分じゃないと思っていたから。


彼が私のことを好きでいてくれている気持ちは信じていたけれど、彼にはきっと私以上に大切なものがたくさんあって、それを捨ててまで私と結婚するのは彼の本意じゃないと決め付けていた。


でも、彼は私が一番だと言ってくれた。全て捨ててでも、私と一緒にいたいと言ってくれた……。


それならば、私も覚悟を決めよう。


「翔君。プロポーズの返事をするね」

「……うん」


私だって、翔君のことが何よりも好きなのだから。



「喜んで」



だから、あなたと結婚したいです。



私がそう答えると、翔君は再び私のことを正面から抱き締める。
腕の力が強くて、少しだけ痛くて、でもそれが幸せで。


……あ、そうか。これが〝幸せ〟なんだな。
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