触れられないけど、いいですか?
「いいんじゃないかな」

なんてことのない様子で、翔君が言う。


「男性恐怖症だって、さくらはさくらだよ。個性の一つだと思えば、何でもない」

「でも、これから先、翔君や周りの人達に迷惑掛けることや不快な思いをさせることだってあるかもしれないよ」

「そうならない為に俺がいるんだよ」


……温かいだけじゃない。力強く、そして信頼出来る、声、言葉。

ずっと悩んできた男性恐怖症は、遂に今日まで治ってはくれなかったけれど……それでもいいのかな、と。そんな風に思えた……。


「それに」

「それに?」

「俺にはたくさん触れられるようになったんだから、それでいい」

「……もう」

恥ずかしいけれどその通り。他の男性に触れることは怖いけれど、翔君に触れることは何の抵抗もなくなった。恥ずかしさは、あるけれど。


「そろそろ時間だね」

椅子から立ち上がり、翔君が言う。


「立てる?」

私の正面に立った彼が、右手を差し出してくれる。


「うん」と答え、彼の手をそっと取る。

すると軽く引き寄せられーー


いつか伝えてくれた、あの言葉を。



「愛してるよ」



だから私も、この言葉を返す。



「私も愛してます」



それはこの先も変わらない。いつまでも、私達はずっと一緒だからーー。



End
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