触れられないけど、いいですか?
電車から降りると、フラつく足でなんとか数歩歩き、ガラス張りの待合室の中のベンチに腰をおろす。
他には誰もいないこの空間で、ふぅ、と一息吐くと、三つ編みの彼女が「どうぞ」と言ってペットボトルのお茶を手渡してくれる。ほぼ反射的に受け取ると、冷んやりとしていて気持ち良い。
「さっき買ってまだ口つけてないので、どうぞ」
「あ、じゃあお金払います……」
「あはは。いらないですよ!」
明るく笑いながら、彼女も私の隣に腰掛けた。
「顔色、少し良くなりましたね。さっきは真っ青でしたよ。風邪でもひいてるんですか?」
「あ、いえ……その」
「ん?」
……痴漢被害のせいで電車に乗るのが怖い、なんて初対面の人に話すことではないと思ったけれど、助けてくれた彼女に嘘を吐くのもどうだろうと思い、その事情を正直に話した。
「そうでしたか。今日は無理して電車乗らなきゃいけない用事でもあったんですか?」
「う、うーん……まぁ……」
「それに、さっきの電車、女性専用車両ついてましたよ」
……ん?
女性、専用車両……。
「そ、そうか! その手がありましたね!」
電車に乗ったのは十年振りだったのもあって、女性専用車両という概念が全く思いつかなかった。