触れられないけど、いいですか?
そんなことを考えていると、翔さんから「さくらさん」と名前を呼ばれ、彼を振り返る。

彼は、いつも通り優しい笑みを浮かべていてーーと思っていたのに、なんだろう、何か違う気がする。

笑ってはいるのだけれど、いつもの様な明るさと爽やかさがないというか……こちらの背筋がピッと正しくなってしまいそうな、威圧さを感じてしまった。


「しょ、翔さん?」

「今日は、どちらへ出掛けていたんですか?」

「え?」


張り詰めたオーラで何を聞かれるかと思えば、そんなこと?


……あ。もしかして私が出掛けていて少しお待たせしてしまったことを怒っているとか?
うーん、いや、待たせたといっても数分だろうし、そんなことで怒る人ではないか……。


「ええと、ちょっとお買い物に」

「一人で? 歩いて帰ってきたように思えましたが」


……やっぱり怒ってる? こんな問い詰める様な聞き方、されたことないし……。
でも、何に怒っているのか分からない。

とりあえず、電車で出掛けたことは黙っておこう。無理して倒れただなんてバレたら、更に怒らせてしまうかもしれない。


「大学時代の友人に、車で迎えに来てもらったんです」

「その友人というのは、男性ですか?」

「お、女の子ですよ! 当然じゃないですか!」

何言ってるんだろう。私が男性と出掛ける訳ないって、翔さんも分かっているはずなのに。


戸惑う私に、翔さんは突然グイッと顔を近付けてきてーー



「では何故、男物の香水の匂いがするんですか?」



と聞いてきた。
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