触れられないけど、いいですか?
男物の香水? そんな匂い、いつついたのだろう。

……そんなことより、翔さんの表情には遂に笑顔すらなくなっている。

鋭い瞳は私を真っ直ぐに射抜いてくるようで、危うく唇が触れ合いそうになる程に顔を近付けられている。


「さくらさん。答えて」


何かの間違いです、と答えればいいだけなのに、翔さんの迫力に気圧されて声が出ない。


でも、翔さんが怒ってる原因って、このこと?
だとしたら、こんなのまるで嫉妬ーー



「待たせたね」

父が戻ってくると、翔さんは「いえ!」と答え、私からパッと離れた。
その顔は、いつもの明るくて爽やかな笑顔。


「そうだ。さくらさんは、どんなスタイルの挙式が良いですか?」

「へ? あ、えぇと……」


あれ? たった今まで何も起きていなかったかの様な雰囲気の翔さんに、思わず唖然とする。

その後も翔さんは、そのままの様子で父と会話を続ける。


……もしかして、本当に何もなかった? 私の妄想だった?


って、そんな訳はない。紛れもない事実だ。


だけど……だとしたら、一体何だったの?

まさか本当に嫉妬していたなんてことはないだろう。

私と翔さんは、婚約者だけれど普通の恋人同士……とは少し違うんだから。
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