触れられないけど、いいですか?
数日後。

定時に仕事を終え、自分のデスク周りを片付ける。

結婚して日野川家に嫁いだらこの仕事も退職しなければならなくなるな……なんて考えながら周りの同僚達に「お先に失礼します」と挨拶をして回っていると、

「朝宮さん」

と、部長に声を掛けられる。


「はい。何でしょう?」

「帰宅間際に申し訳ないんだけど、これを総務部に持っていってくれるかい?」

そう言いながら部長が私に渡してきたのは、総務部宛ての社内メール便。
うちの会社の総務部は、このオフィスビルの二十階。
たまーにこうして、他部所宛てのメール便が混じっていることがある。


「分かりました。帰る前に総務部に寄っていきます」

「悪いね。よろしく」


部長から受け取ったA4サイズの茶封筒を持ち、私はエレベーターで二十階へ向かう。


しんと静まり返って落ち着いた様子の二十階。
定時を過ぎているからというのもあるだろうけれど、本部室が立ち並ぶ二十階は、他の階よりも常に静かなイメージ。


総務部、という入り口に貼られたプレートを確認してから扉をノックすると、すぐに中から社員が出てきた。


「すみません。販売促進部の者ですが、総務部宛てのメール便を……」

と。言葉の途中で私は息を呑んだ。


「ああ。ありがとうございます」

そこにいた、スーツ姿の男性が……


「この間の……」

先日、駅で私を助けてくれた三つ編みの女の子に顔がそっくりだったのだ。
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