触れられないけど、いいですか?
それは紛れもなく、愛の言葉。
ただの政略結婚の相手にこんなこと言う……?
翔さんの様な真面目な人なら、尚更。


「……翔さんって、私のこと、好きなんですか?」

自分でも何言ってるんだろうって思ったけれど……そんなこと有り得るかなって思ったけれど……確かめずにはいられなかった。

私の質問を受けた翔さんは、目をきょとんと見開いて、じっと私を見つめる。

やっぱり変なこと聞いてしまったかな、と思ったけれど。


「それは勿論。何を今更」


と笑いながら答えた。どうやら、きょとんとした表情の意味は私が想像したものとは違ったらしい。


「え、え、だって、何で……。先日初めてお会いしたばかりなのに……」

戸惑う私とは裏腹に、翔さんはどこまでもスマートで。


「理由が必要ですか?」

「そ、それは是非」

「では、そのうち」

そ、そのうち? 今じゃなくて?


そう言えば、気になる点がもう一つ。


「どっちの翔さんが、本当の翔さんですか?」

私の突拍子もない質問に、翔さんはまたしても不思議そうな顔をしてみせるけれど、


「その、言葉遣いとか雰囲気とか、さっき急に変わったので」

敬語じゃなくなったり、私のことを〝さくら〟って呼び捨てにしたり。何より、急に壁際に追い詰めて、キスしろと言ってきたり。普段の翔さんからでは考えられない行動や雰囲気だった。
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