触れられないけど、いいですか?
ゆっくりと、彼の顔が私に近付く。

目を瞑るタイミングとかよく分からないけれど、そっと瞳を閉じると、唇に柔らかな感触が落ちてくる。


唇が重なり合っていたのは、恐らく数秒。
でも、時が止まったかのように感じた。
凄く、ドキドキした。
もしかしたら、この間のファーストキスよりドキドキしたかもしれない。


「さくら」

吐息が掛かりそうな程の至近距離で見つめられながら、名前を呼ばれる。


「翔、君……」

「平気? 気分悪くない?」

「う、うん」

あえて言うなら、心臓が激しく動きすぎて苦しいけれど……嫌な気分じゃない。


決して言えないけど、一回だけのキスが、名残惜しいとすら感じてしまった……。



「じゃあ、お休み」

そう言って、軽く手を振りながら彼は帰っていった。

彼の後ろ姿が見えなくなるまで、彼のことを見つめていた。

その間、ずっと胸のドキドキはおさまらなかった。
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