触れられないけど、いいですか?
「既に聞いているかもしれませんが、私達は幼馴染みで、昔から家族ぐるみの付き合いなんです。彼、とてもしっかりした人でしょう? でも、子供の頃は泣き虫で、私にすぐ頼ってくることも多かったんですよ、ふふ」

「おい、いつの話してるんだよ。恥ずかしいこと言うなよ」

「あら、ごめんなさい。奥様の前ではかっこつけたいわよね。とにかく、そんな感じで私達は兄妹みたいな関係なんです。年齢は一緒ですが」

「そ、そうなんですか……」


兄妹みたいな関係……か。
もしかしたら二人は、私が思っていた以上にお互いのことを深く知り得た関係なのかもしれないな。

だからって、二人の関係性を疑うだとか、翔君の気持ちを疑うだとか、そういう訳じゃない。
けど、私が知らない翔君を優香さんはたくさん知っているのだと思うと単純に寂しいし、どうしても不安になる。


そんなことを考えていると、突然翔君の携帯が鳴り出した。

どうやらお義父さんからの電話らしく、「仕事の電話かもしれないから」と言って、彼は席を外してしまった。


その場には、私と優香さんだけが残される。


気まずい……なんて言ったら彼女に失礼だけれど、何を話したらいいか分からない。
私は決して人見知りという訳ではないけれど、今何も考えずに口を開いたら、翔君との関係だとかいらないことをうっかり聞いてしまいそうだと思い、上手く話し出せなかった。


すると、先に口を開いたのは優香さんの方だった。


「さくらさん」

私の名前を呼びながら、にっこりと笑う彼女。
その笑顔に私も安心して、微笑み返した直後ーー


「……羨ましい」



……え?

羨ましい、って何のこと?

それに、優香さんの顔……一見笑っているのに、肝心の目が笑っていない気がして、思わず背筋が凍りかけた。


……何か怒ってる?
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