学園スパイラル~七不思議編~
「なんだってお前はいつも、食べ物に釣られるんだ」

 耕平はがっくりと肩を落とす。

 匠はそれに小さく笑い、イーゼルを見下ろした。誰にも見えない絵は、少しずつ進んでいるようだ。

 さらに五分後──

「もういいよ。健」

「え、終わり?」

 三十分も経ってないよ。油絵ってそんなに早く仕上がるもんなの?

「うん。見事な出来栄えだ」

 もちろん、そんなに早く完成する訳はない。

 彼女は油絵をしっかり学ぶ前に、この世を去ってしまった。従って、その塗り方は雑──というよりも適当。

 絵を描けたという満足感が重要であって、初心者にクオリティを求めるようなものじゃない。

 だから匠は、あえて何も言わずに彼女を見守っていたという訳である。

 耕平と健はイーゼルをのぞき込むが、やはりキャンバスは真っ白のままだ。二人は顔を見合わせた。

 匠の目は、何か感想をと求めている。
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