学園スパイラル~七不思議編~
「じゃあ、初めに私がゆっくり弾くから。よく見ていて」

 音楽室は静まりかえり、匠は鍵盤を見つめ数回、深呼吸をして幽霊たちが待ち望むメロディを奏で始めた。

「これは──」

 耕平は息を呑む。

 それはまさしく、シューベルトのアヴェ・マリア──緩やかに紡がれていく、伸びやかで息の長い調べに思わず聞き入る。

 アヴェ・マリアはラテン語で直訳すると「こんにちはマリア」「おめでとうマリア」を意味し、このタイトルが付けられた曲はほぼ全てが聖母マリアを讃える宗教曲である。

 しかし、シューベルトのアヴェ・マリアは他の宗教曲とは異なる。その理由は、アヴェ・マリアの本来のタイトルが「エレンの歌 第3番」だからだ。

 元々はウォルター・スコットの叙事詩「湖上の美人」に曲付けされたもので、歌詞にアヴェ・マリアと出てくることで、いつしか「シューベルトのアヴェ・マリア」と呼ばれるようになった。

 つまりは、元は宗教的な曲ではなかったということだ。これだけ美しい旋律にも関わらず、簡単な部類で初心者向けともいえる。
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