学園スパイラル~七不思議編~
「なんとなくは解ったかな?」

 匠の声に耕平は我に返った。周りが見えないほど聞き澄ましていた自分が恥ずかしい。

「それじゃあ、少しずつやっていこう」

 匠が左側の鍵盤を弾くと、誰もいないはずの右側の鍵盤がひとりでに沈んでメロディを奏でていく。

「あ。やっぱ、ここにいるんだ」

 健がしれっと応える。彼はよく匠の家にいくので聞き慣れているのかもしれない。それ以前に、健に芸術的なセンスを求めてはいけない。

「ピアノ、上手いんだな」

「母ちゃんが元ピアニストなんだよ」

「なに?」

 思いがけない事実に耕平は目をむいた。

「親父さんが怪我して仕事辞めたから、引退して一緒に居酒屋始めたんだってさ」

「ピアニストに未練とか、なかったのか?」

「あそこの夫婦、ラブラブなんだよね。加えて、匠をすげえ可愛がってるの」

 それを聞いた耕平は、ますます目を見開く。
< 53 / 68 >

この作品をシェア

pagetop