兄の溺愛がマジでウザいんですけど……《完》
私は、会場の一番後ろの列に一人で座っていた。



お坊さんの御経が始まる。



黒い喪服を着た人々と、お坊さんの抑揚のない声、
お焼香の香りに、悲しみに包まれた重い空気。



嫌でも、13年前のあの日を思い出す。



まだ3歳だった私は、黒いワンピースを着て、おばあちゃんの隣に座っていた。



私は、実のパパとママの命日を知らない。



まだ幼かった私は、あの日のことを覚えていないとみんな思っていた。



パパとママがいなくなった日を、忘れることなんかできない。



だけど、私は本当のパパとママを覚えていると言えなかった。



要のお父さんとお母さんは、私のことを本当の娘として育ててくれていた。



今のお父さんとお母さんに、パパとママの命日を聞くことができなかった。



それを聞いたら、お父さんとお母さんの娘じゃいられなくなる気がした。
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