音にのせて
食事も終わり、そろそろ帰ろうかと話をしていた時、勇一さんの携帯に着信がかかってきた。どうやら仕事関係の電話らしい。勇一さんは「すまないね、少し待っていてくれ」と言うと、携帯で話をしながら部屋を出ていった。
お母さんもお手洗いに行くと席を立ち、テーブルには私と凌玖君の2人だけとなってしまった。

「なんだか不思議だよね。これから家族になるなんて」

このまま無言の状態も気まずいと思い、私は凌玖君に話かけた。

「私、最初は不安だったんだ。知らない人と家族になるなんて想像もつかなかったから。でも、勇一さんも優しい人だし、同い年の凌玖君もいてくれるからとても心強いよ」
「心強い…ね」

私の言葉に返ってきたのは、嘲笑うかのような冷たい言葉。その言葉に、私の思考は一瞬止まってしまった。

――今の言葉は、誰が言ったの?

そう思う程、一瞬誰が話したのか分からなかった。
しかし、どう考えても今聞こえてきた言葉は凌玖君から発せられた言葉だった。
まさかと思いつつ凌玖君へ視線を向けると、今までの優しい笑顔からは一変し、腕を組んだ状態で冷たい眼差しを向けていた。

「お前は単純だな。どんな奴かも分からない人間とこれから家族ですって言われて、簡単に受け入れられるなんて」

凌玖君の豹変ぶりに驚きを隠せず、私は言葉を返すことができなかった。
そんな私をよそに、凌玖君は言葉を続けた。

「先に言っておく。俺はこの再婚に異論は無いが、仲良くするつもりも無い。お前も俺に干渉してくるな」
「え…?」

彼の言葉を理解しようと頭が働こうとするが、思うように動かない。
私は、一言返すのが精一杯だった。
凌玖君はハァ~と溜め息を吐いて立ち上がると、私に手を伸ばしてきた。その手は私の顎を掴み、顔を上へと向けられた。
彼の碧い瞳で至近距離から見つめられ、まるで逃がさないと言われているかのように体が動かなくなってしまった。

「だから、俺に構うなって言ってんだよ。表向きは“家族”を演じてやるが、学校はもちろん家でも必要以上に話しかけたりするな」

その声と射抜くような冷たい瞳に、私は背筋がゾッとした。聞きたいことは色々あったが、彼の雰囲気に私は口を開くことができなかった。
それだけ言うと、凌玖君は手を離し、再び椅子に腰掛けた。
それと同時に、勇一さんとお母さんが戻ってきた。

「待たせたね。じゃあそろそろ帰ろうか」
「はい」

勇一さんの言葉に、凌玖君はさっきまでの冷たい雰囲気が嘘のように、最初に会った時と同じような完璧な笑顔で返事をした。
私はただ呆然としていた。今まで冷たい視線を向けていた彼と、今目の前にいる優しい笑顔を向けている彼が同一人物であることに頭がついていかなかった。
まるで夢でも見ていたかのような、そんな気分だった。

私も席から立ち上がった時、ちょうど私の横を凌玖君が通り過ぎた。

「…さっき言った事、忘れるなよ」

ぼそりと聞こえてきた彼の言葉。そして、一瞬だったが先程と同じ冷たい視線。
まるで夢ではないと再認識させられたようだった。
私は、これからの生活に一層不安を覚えつつ、先を歩く彼の背中を見つめた。
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