音にのせて
第4話 閉ざされた心
自分で動くことができない私をお姫様抱っこしたまま、凌玖君は無言で保健室までの道のりを歩いた。
途中、何人か生徒達とすれ違うこともあり、驚いた表情でこちらを見ていたが、凌玖君は気にする様子はなかった。
逆に、私は初めて男の子に抱き抱えられている恥ずかしさで、顔を上げることができなかった。
保険室の手前まで来ると、前方から驚いた声を上げる人物がやってきた。
「西園寺…と、奏ちゃん!?何かあったの?」
真翔君だった。
真翔君はこの状況が理解できない様子で、驚いた表情のままこちらに近付いてきた。
そんな真翔君を無視し、凌玖君は保険室のドアを開けたが、中には誰もいなかった。
「先生だったら留守みたいだよ」
真翔君はドアに掛けられている「出張中」のプレートを指差した。
チラリとプレートに視線を向けた凌玖君はハァ~と大きな溜め息を吐くと、そのまま保険室の中に入り、私を手近なイスに下ろした。
「…後は任せる」
「は?おい、西園寺…!?」
凌玖君は短く真翔君へ告げると、そのまま保健室を出て行ってしまった。
「ホント勝手だなぁ~、あいつは…。とりあえず、今は奏ちゃんの手当てが先だね」
「だ、大丈夫だよ!1人でできるから…」
たまたま通りがかった真翔君に世話をしてもらうのは悪いと思って断ろうとしたが、真翔君は私と同じ目線に屈み、私の頭に優しく手を置いた。
「こういう時は、素直に甘えること。大丈夫!俺結構上手いから。任せてもらえる?」
優しい瞳に見つめられながらそう言われると私はそれ以上断ることができず、素直に頷いた。
それを確認すると、真翔君は道具が入っている場所を探り、消毒液と綿糸を取り出した。
「少し沁みるかもしれないけれど、我慢してね」
そう言って、真翔君は腕の傷に消毒液を付けた。鈍い痛みが体を走り、私は痛さに顔を顰めた。
「痛かった?」
「ん…大丈夫…」
心配そうに見てきた真翔君に、私は小さく首を振った。
「もうちょっとだけ我慢しててね」
それからも、真翔君は私の様子を伺いつつ膝や頬の傷口にも消毒液を付けていった。
傷の消毒が終わると、今度は傷口をガーゼで覆い、腕や足には包帯を巻いていった。
「…上手いね、真翔君」
私は真翔君の慣れた手付きを見ながら言った。
「俺の親が医者だから、こういう簡単な事は小さい頃から教えてもらってるんだよ。はい、おしまい」
「…ありがとう」
私がお礼を言うと、真翔君は柔らかく微笑み、「どういたしまして」と言って道具を片付け始めた。
「それにしても、さっきは本当に驚いたよ」
真翔君は私に背を向けたまま、道具を片付けながら言った。
「奏ちゃんは傷だらけだし、そんな奏ちゃんをあの西園寺がお姫様抱っこしてるし」
「あー…そうだよね」
「その傷は、西園寺のファンの子達にやられたんでしょ?」
「うん…。でも、もう大丈夫だと思う。凌玖君が助けてくれたから」
その言葉に真翔君は動かしていた手を止め、驚いた表情で私の方を振り返った。
「西園寺が…?」
「うん…」
「へぇ~…。西園寺が誰かを助けるなんて、珍しいこともあるもんだな」
真翔君は再び背を向け、道具を片付け始めた。
「真翔君は…昔の凌玖君を知っていたりする…?」
「昔の西園寺?」
真翔君は、今度は不思議そうな顔でこちらを振り返って私を見つめた。
「昔、凌玖君は何か辛い目にでも遭ったのかなって思って…」
“…人間は自己中心的な生き物だ。自分のためなら相手を傷付けることも、嘘を付くことも平気でする。それなら誰も信用せず、自らの力で生きていくしかない”
私の中で凌玖君のさっきの言葉が引っかかっていた。
もしかしたら、凌玖君は傷付くような何かがあって、それが原因で心を閉ざしているのかもしれない。
真翔君は私から一度視線を逸らし、黙って片付けを再開した。
それが終わると、真翔君は私の傍にあるイスに腰を下ろし、笑顔で私に視線を向けた。
「さぁ、どうだろうね?」
その笑顔と言葉は、まるで人を試しているかのようだった。
真翔君は腕と足を組み、観察するような眼差しで私を見つめた。
「奏ちゃんは、どうして西園寺のことを知りたいの?」
「え…?」
真っ直ぐ見つめられた視線。それはまるで私の心の奥底まで見透かされているような瞳だった。
その瞳がなんだか怖くて、私は真翔君から視線を逸らした。
「…別に何か理由がある訳では無いけれど…」
「じゃあ別に知らなくても問題無いでしょ?あんな何考えているか分からない冷たい男の事なんて、気にする必要無いよ」
「…確かに、凌玖君は何考えているか分からないけれど…でも、凌玖君が悲しそうな目をしていたから…」
初めて会った時も、さっき話していた時も…彼の冷たい碧い瞳の奥では、どこか寂しさを滲ませているように見えた。助けを求めたくてもそれが叶わず、独りで戦ってきたような…私にはそう見えた。
そして、今でも彼は心のどこかで助けを求めているようだった。
「…そんな凌玖君を…何故か放っておけないの…」
真っ直ぐ向けられている真翔君の瞳を、私も同じように見つめ返した。
「…なるほど、ね」
真翔君が小さく呟くのと同時に、予鈴を告げるチャイムが鳴った。
「あっ、そろそろ戻らないと…」
私は慌てて立ち上がって入口へ向かおうとしたが、それは真翔君の手によって阻止された。
真翔君は私の腕を掴み、笑みを浮かべながら私を見上げていた。
「良いじゃん。授業、一緒にサボろうよ」
私は掴まれた手の力と、彼の見つめてくる瞳から身動きが取れなくなった。
そして、次の瞬間には急に立ち上がった真翔君に腕を引っ張られ、彼の腕の中に抱き締められてしまった。
「えっ…!?」
「西園寺のこと知りたいんでしょ?だったら、少し大人しくしてて」
耳元で低く囁かれた言葉に、私の顔が一瞬で熱くなっていった。何とか逃れようとしても、強い力で抱き締められているため、振り解くことができなかった。
「等価交換。西園寺の事教えてあげる代わりに…」
後ろに回されている真翔君の指が、怪しく背中をなぞる。
「やっ…真翔くっ…」
私が精一杯の声で抗議しようとしたら、急に抱き締められていた腕の力が緩んだ。
私は不思議に思い真翔君を見ると、彼は楽しそうに笑っている。
「ごめん。ちょっとからかってみただけだから」
そう言って真翔君は再びイスに腰を下ろし、「ククッ…」と喉を鳴らして笑った。
「なっ…!?からかっただけって…酷いよ!」
「奏ちゃんの反応が可愛かったからつい…ね」
「本当にごめんね」と言いながら笑っている真翔君の顔を見たら、恥ずかしくなって何も言えなくなってしまった。
そんな事をしているうちに、本鈴を告げるチャイムが鳴ってしまった。
「授業も始まっちゃったし、このままここにいようよ。途中から教室入るの嫌でしょ?」
私は小さく溜め息を吐いて、渋々さっきまで座っていたイスに腰を下ろした。
「さっきの質問の答えだけど…」
おもむろに話し始めた真翔君の言葉を、私は瞬時に理解する事ができなかった。
そんな私の様子を察してか、真翔君は付け足すように言葉を続けた。
「昔の西園寺を知っているかって事だけど…正直なところ俺も知らない。俺が柊木野学園に通い始めたのは中等部からだし、クラスも別々だったから。でも、あいつは西園寺って名前だけでも注目を集めるから、遠目からは何となく知ってはいたんだけど、その時から西園寺は今と変わらなかった。他人を寄せ付けず、いつも冷たい目をしていた。高等部に上がって同じ生徒会っていう共通点ができても、必要最低限の事しか西園寺とは話さなかった。最初は、俺もそれ以上西園寺とは関わらないと思っていた」
そこまで話すと、真翔君は目を伏せた。
「そんなある日、俺は音楽室にいる西園寺を見かけた。あいつはピアノ弾くわけでもなく、切ないような、悲しいような瞳でただ見つめているだけだった。西園寺のそんな姿を見たのは初めてで、それ以降、俺は自分から西園寺に話しかけるようになっていた」
「どうして…?」
私が尋ねると、真翔君は小さくクスリと笑い立ち上がって窓のほうへと歩いていった。
「ホント、どうしてだろうね。人が仲良くなろうとあんなに話しかけても、全く相手にされないのに」
真翔君は一呼吸置いてから、ゆっくりと続けた。
「それでも放っておけないのは…あいつの弱い部分を知ってしまったからかな。まぁ、本当のところ理由はよく分からないんだけどさ」
苦笑を漏らしながら話す真翔君を、私は黙って見つめた。
直後、授業終了のチャイムが保健室の中に鳴り響いた。
「ちょうど授業も終わったし、教室に戻ろうか」
真翔君の言葉で私達は保健室を出て、無言で教室へと向かってゆっくり歩いた。
私の心の中にはモヤモヤしたものが広がっているようで、スッキリしない。
「…奏ちゃん」
急に名前を呼ばれ、私は隣を歩く真翔君を見上げた。真翔君は正面を向いたまま続けた。
「今日の放課後、中庭に行ってみると良いよ」
「中庭…?」
「もしかしたら、何か聞けるかもしれないから」
「聞けるって?」
真翔君は私の問いかけには答えず、ただ笑顔を向けただけだった。
そして再び、私達は無言で教室へと向かった。
途中、何人か生徒達とすれ違うこともあり、驚いた表情でこちらを見ていたが、凌玖君は気にする様子はなかった。
逆に、私は初めて男の子に抱き抱えられている恥ずかしさで、顔を上げることができなかった。
保険室の手前まで来ると、前方から驚いた声を上げる人物がやってきた。
「西園寺…と、奏ちゃん!?何かあったの?」
真翔君だった。
真翔君はこの状況が理解できない様子で、驚いた表情のままこちらに近付いてきた。
そんな真翔君を無視し、凌玖君は保険室のドアを開けたが、中には誰もいなかった。
「先生だったら留守みたいだよ」
真翔君はドアに掛けられている「出張中」のプレートを指差した。
チラリとプレートに視線を向けた凌玖君はハァ~と大きな溜め息を吐くと、そのまま保険室の中に入り、私を手近なイスに下ろした。
「…後は任せる」
「は?おい、西園寺…!?」
凌玖君は短く真翔君へ告げると、そのまま保健室を出て行ってしまった。
「ホント勝手だなぁ~、あいつは…。とりあえず、今は奏ちゃんの手当てが先だね」
「だ、大丈夫だよ!1人でできるから…」
たまたま通りがかった真翔君に世話をしてもらうのは悪いと思って断ろうとしたが、真翔君は私と同じ目線に屈み、私の頭に優しく手を置いた。
「こういう時は、素直に甘えること。大丈夫!俺結構上手いから。任せてもらえる?」
優しい瞳に見つめられながらそう言われると私はそれ以上断ることができず、素直に頷いた。
それを確認すると、真翔君は道具が入っている場所を探り、消毒液と綿糸を取り出した。
「少し沁みるかもしれないけれど、我慢してね」
そう言って、真翔君は腕の傷に消毒液を付けた。鈍い痛みが体を走り、私は痛さに顔を顰めた。
「痛かった?」
「ん…大丈夫…」
心配そうに見てきた真翔君に、私は小さく首を振った。
「もうちょっとだけ我慢しててね」
それからも、真翔君は私の様子を伺いつつ膝や頬の傷口にも消毒液を付けていった。
傷の消毒が終わると、今度は傷口をガーゼで覆い、腕や足には包帯を巻いていった。
「…上手いね、真翔君」
私は真翔君の慣れた手付きを見ながら言った。
「俺の親が医者だから、こういう簡単な事は小さい頃から教えてもらってるんだよ。はい、おしまい」
「…ありがとう」
私がお礼を言うと、真翔君は柔らかく微笑み、「どういたしまして」と言って道具を片付け始めた。
「それにしても、さっきは本当に驚いたよ」
真翔君は私に背を向けたまま、道具を片付けながら言った。
「奏ちゃんは傷だらけだし、そんな奏ちゃんをあの西園寺がお姫様抱っこしてるし」
「あー…そうだよね」
「その傷は、西園寺のファンの子達にやられたんでしょ?」
「うん…。でも、もう大丈夫だと思う。凌玖君が助けてくれたから」
その言葉に真翔君は動かしていた手を止め、驚いた表情で私の方を振り返った。
「西園寺が…?」
「うん…」
「へぇ~…。西園寺が誰かを助けるなんて、珍しいこともあるもんだな」
真翔君は再び背を向け、道具を片付け始めた。
「真翔君は…昔の凌玖君を知っていたりする…?」
「昔の西園寺?」
真翔君は、今度は不思議そうな顔でこちらを振り返って私を見つめた。
「昔、凌玖君は何か辛い目にでも遭ったのかなって思って…」
“…人間は自己中心的な生き物だ。自分のためなら相手を傷付けることも、嘘を付くことも平気でする。それなら誰も信用せず、自らの力で生きていくしかない”
私の中で凌玖君のさっきの言葉が引っかかっていた。
もしかしたら、凌玖君は傷付くような何かがあって、それが原因で心を閉ざしているのかもしれない。
真翔君は私から一度視線を逸らし、黙って片付けを再開した。
それが終わると、真翔君は私の傍にあるイスに腰を下ろし、笑顔で私に視線を向けた。
「さぁ、どうだろうね?」
その笑顔と言葉は、まるで人を試しているかのようだった。
真翔君は腕と足を組み、観察するような眼差しで私を見つめた。
「奏ちゃんは、どうして西園寺のことを知りたいの?」
「え…?」
真っ直ぐ見つめられた視線。それはまるで私の心の奥底まで見透かされているような瞳だった。
その瞳がなんだか怖くて、私は真翔君から視線を逸らした。
「…別に何か理由がある訳では無いけれど…」
「じゃあ別に知らなくても問題無いでしょ?あんな何考えているか分からない冷たい男の事なんて、気にする必要無いよ」
「…確かに、凌玖君は何考えているか分からないけれど…でも、凌玖君が悲しそうな目をしていたから…」
初めて会った時も、さっき話していた時も…彼の冷たい碧い瞳の奥では、どこか寂しさを滲ませているように見えた。助けを求めたくてもそれが叶わず、独りで戦ってきたような…私にはそう見えた。
そして、今でも彼は心のどこかで助けを求めているようだった。
「…そんな凌玖君を…何故か放っておけないの…」
真っ直ぐ向けられている真翔君の瞳を、私も同じように見つめ返した。
「…なるほど、ね」
真翔君が小さく呟くのと同時に、予鈴を告げるチャイムが鳴った。
「あっ、そろそろ戻らないと…」
私は慌てて立ち上がって入口へ向かおうとしたが、それは真翔君の手によって阻止された。
真翔君は私の腕を掴み、笑みを浮かべながら私を見上げていた。
「良いじゃん。授業、一緒にサボろうよ」
私は掴まれた手の力と、彼の見つめてくる瞳から身動きが取れなくなった。
そして、次の瞬間には急に立ち上がった真翔君に腕を引っ張られ、彼の腕の中に抱き締められてしまった。
「えっ…!?」
「西園寺のこと知りたいんでしょ?だったら、少し大人しくしてて」
耳元で低く囁かれた言葉に、私の顔が一瞬で熱くなっていった。何とか逃れようとしても、強い力で抱き締められているため、振り解くことができなかった。
「等価交換。西園寺の事教えてあげる代わりに…」
後ろに回されている真翔君の指が、怪しく背中をなぞる。
「やっ…真翔くっ…」
私が精一杯の声で抗議しようとしたら、急に抱き締められていた腕の力が緩んだ。
私は不思議に思い真翔君を見ると、彼は楽しそうに笑っている。
「ごめん。ちょっとからかってみただけだから」
そう言って真翔君は再びイスに腰を下ろし、「ククッ…」と喉を鳴らして笑った。
「なっ…!?からかっただけって…酷いよ!」
「奏ちゃんの反応が可愛かったからつい…ね」
「本当にごめんね」と言いながら笑っている真翔君の顔を見たら、恥ずかしくなって何も言えなくなってしまった。
そんな事をしているうちに、本鈴を告げるチャイムが鳴ってしまった。
「授業も始まっちゃったし、このままここにいようよ。途中から教室入るの嫌でしょ?」
私は小さく溜め息を吐いて、渋々さっきまで座っていたイスに腰を下ろした。
「さっきの質問の答えだけど…」
おもむろに話し始めた真翔君の言葉を、私は瞬時に理解する事ができなかった。
そんな私の様子を察してか、真翔君は付け足すように言葉を続けた。
「昔の西園寺を知っているかって事だけど…正直なところ俺も知らない。俺が柊木野学園に通い始めたのは中等部からだし、クラスも別々だったから。でも、あいつは西園寺って名前だけでも注目を集めるから、遠目からは何となく知ってはいたんだけど、その時から西園寺は今と変わらなかった。他人を寄せ付けず、いつも冷たい目をしていた。高等部に上がって同じ生徒会っていう共通点ができても、必要最低限の事しか西園寺とは話さなかった。最初は、俺もそれ以上西園寺とは関わらないと思っていた」
そこまで話すと、真翔君は目を伏せた。
「そんなある日、俺は音楽室にいる西園寺を見かけた。あいつはピアノ弾くわけでもなく、切ないような、悲しいような瞳でただ見つめているだけだった。西園寺のそんな姿を見たのは初めてで、それ以降、俺は自分から西園寺に話しかけるようになっていた」
「どうして…?」
私が尋ねると、真翔君は小さくクスリと笑い立ち上がって窓のほうへと歩いていった。
「ホント、どうしてだろうね。人が仲良くなろうとあんなに話しかけても、全く相手にされないのに」
真翔君は一呼吸置いてから、ゆっくりと続けた。
「それでも放っておけないのは…あいつの弱い部分を知ってしまったからかな。まぁ、本当のところ理由はよく分からないんだけどさ」
苦笑を漏らしながら話す真翔君を、私は黙って見つめた。
直後、授業終了のチャイムが保健室の中に鳴り響いた。
「ちょうど授業も終わったし、教室に戻ろうか」
真翔君の言葉で私達は保健室を出て、無言で教室へと向かってゆっくり歩いた。
私の心の中にはモヤモヤしたものが広がっているようで、スッキリしない。
「…奏ちゃん」
急に名前を呼ばれ、私は隣を歩く真翔君を見上げた。真翔君は正面を向いたまま続けた。
「今日の放課後、中庭に行ってみると良いよ」
「中庭…?」
「もしかしたら、何か聞けるかもしれないから」
「聞けるって?」
真翔君は私の問いかけには答えず、ただ笑顔を向けただけだった。
そして再び、私達は無言で教室へと向かった。