愛人ごっこのはざまで
20.磯村さんが来てくれた(4)
1月も早15日を過ぎた。そろそろ磯村さんが来てくれるころだ。金曜日の5時少し前に電話が入る。
「おめでとう。磯村です」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「今日、行ってもいかな?」
「いらしてください。待っています」
今日は10時半ごろにやってきた。店にはまだお客さんが大勢いた。
「今日は混んでいるんです。少し待っていてください」
「繁盛しているのはいいことだ。待っているから、お客さんを大切にしてほしい」
お客さんがすべて帰ったのは、12時少し前だった。こんなことはここへ通って初めてだった。
「ごめんなさいね、こんなに混むことは珍しいの、すぐに上に上がって下さい。すぐに行きますから」
磯村さんには、もう勝手は分かっているので、先に部屋に上がってもらった。店の後片付けをして少し遅れて上がっていった。さすがに今日は少し疲れた。でもせっかく来てくれたのだからこれからの時間を大切にしたい。
「忙しかったから、疲れただろう。お風呂では僕が洗ってあげよう」
「お言葉に甘えさせていただきます。お願します」
私は今まで疲れていても疲れているところは見せないようにしていた。これはあそこで働いていた時から気を付けていた。私が疲れているのはお客さんとは関係ないことで、せっかく来てもらったのにそれじゃあ申し訳ないと思うからだ。
磯村さんは私が疲れていのに気付いてくれた。私のことを思ってよく見てくれているからだろう。
私が疲れていたのは、電話を受けてからずっと考え事をしていたからだと思う。山路さんからプロポーズされていることを磯村さんに話すべきか悩んでいた。
磯村さんに身体を洗ってもらっている今もどうするか悩んでいる。
お風呂から上がったところで、水割りで喉を潤す。このころには今日は話すのをやめようと決めていた。せっかくだから、何もかも忘れてただ愛し合いたいと思ったからだ。
いつものように二人は愛し合う。まず磯村さんが積極的に私を可愛がってくれる。
終わった後、磯村さんは私を後ろから抱いてくれている。私はその余韻に浸りながら、彼の回復を待っている。
「私のことどう思っている?」
「どう思っているって、好きだ。凜は身も心も癒してくれる」
「あなたも私の身も心も癒してくれているわ。ずっとこのままでいられたらと思っています」
「僕も君がいなくならない限りはこのままでいたいと思っている」
「急にいなくなったらどうします?」
「そんなことはないと思っている」
私は磯村さんに抱きついた。もう回復していてもいい時間だと思った。この時間を大切にしたい。
今度は私が磯村さんを好きなようにする。彼はそれを楽しみながら私と愛し合う。そして心地よい疲労の中で二人は眠りに落ちていく。
明け方、磯村さんが寝返りを打ったので目が覚めた。彼の寝顔を見ていると抱きついてしまった。大好き! 私が抱きついたので目を覚めました。いつもなら彼の方が先に目覚めて、私を揺り起こして愛し合うところだった。けだるさの中でまた二人は愛し合う。
次に目が覚めたら8時を過ぎたところだった。磯村さんを起こさないように私はキッチンで朝食を作り始める。でもその音で目を覚ました。
「今日はいつもより早いね」
「今日は夕方に出かける予定がありますのでそうなったのかもしれません。気にしないで下さい。時間は十分ありますから」
「そうなの? 昨夜は忙しくて疲れているようだったけど、大丈夫?」
「十分に可愛がってもらったので、元気が出てきました。大丈夫です」
「じゃあ早めにお暇するよ」
「ゆっくりしていって下さい」
私はすっかり元気を取りもどしていた。好きな人に愛してもらうのが一番だ。私は幸せものかもしれない。二人の男の人に愛されている。なるようになる! なるようにしかならない! そう思うと気分が明るくなってくる。
一緒に朝食を食べたが、磯村さんは浮かない顔をしていた。私が昨夜からいつもとは違っていると感じたのかもしれない。
私は山路さんからプロポーズされているので、やっぱり嬉しくて、それが表情に出ているのかもしれない。
いつものように磯村さんはお礼を手渡して帰って行った。私は外まで出て見送った。磯村さんは直感的に何かを感じ取っていたかもしれない。いつもとは違って何度も振り向いて手を振っていた。
磯村さんは私が他の誰かとお付き合いしていることを薄々感じているのかもしれない。でもそうは思っても、またそう分かっても、磯村さんはそのことについて何か言ってくることはない。「ほかの人と付き合いのはやめてくれ」と言ってくれるのであれば、それはそれでとっても嬉しい。
ほかの誰かと付き合っているにしても、彼は絶対に言ってこない。結婚の約束をしている訳でもないし、恋人というわけでもない、せいぜい、愛人というような関係だからだ。
磯村さんは、今のところ、これ以上を望んでいない。これが彼らしいところでもあり、私の不満と言えは不満なところでもある。
今まではこれがベストの関係だった。ただ、山路さんにプロポーズされている今、私も踏ん切りをつけなくてはいけない。山路さんのためにも、磯村さんのためにも、そして私のために。
「おめでとう。磯村です」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「今日、行ってもいかな?」
「いらしてください。待っています」
今日は10時半ごろにやってきた。店にはまだお客さんが大勢いた。
「今日は混んでいるんです。少し待っていてください」
「繁盛しているのはいいことだ。待っているから、お客さんを大切にしてほしい」
お客さんがすべて帰ったのは、12時少し前だった。こんなことはここへ通って初めてだった。
「ごめんなさいね、こんなに混むことは珍しいの、すぐに上に上がって下さい。すぐに行きますから」
磯村さんには、もう勝手は分かっているので、先に部屋に上がってもらった。店の後片付けをして少し遅れて上がっていった。さすがに今日は少し疲れた。でもせっかく来てくれたのだからこれからの時間を大切にしたい。
「忙しかったから、疲れただろう。お風呂では僕が洗ってあげよう」
「お言葉に甘えさせていただきます。お願します」
私は今まで疲れていても疲れているところは見せないようにしていた。これはあそこで働いていた時から気を付けていた。私が疲れているのはお客さんとは関係ないことで、せっかく来てもらったのにそれじゃあ申し訳ないと思うからだ。
磯村さんは私が疲れていのに気付いてくれた。私のことを思ってよく見てくれているからだろう。
私が疲れていたのは、電話を受けてからずっと考え事をしていたからだと思う。山路さんからプロポーズされていることを磯村さんに話すべきか悩んでいた。
磯村さんに身体を洗ってもらっている今もどうするか悩んでいる。
お風呂から上がったところで、水割りで喉を潤す。このころには今日は話すのをやめようと決めていた。せっかくだから、何もかも忘れてただ愛し合いたいと思ったからだ。
いつものように二人は愛し合う。まず磯村さんが積極的に私を可愛がってくれる。
終わった後、磯村さんは私を後ろから抱いてくれている。私はその余韻に浸りながら、彼の回復を待っている。
「私のことどう思っている?」
「どう思っているって、好きだ。凜は身も心も癒してくれる」
「あなたも私の身も心も癒してくれているわ。ずっとこのままでいられたらと思っています」
「僕も君がいなくならない限りはこのままでいたいと思っている」
「急にいなくなったらどうします?」
「そんなことはないと思っている」
私は磯村さんに抱きついた。もう回復していてもいい時間だと思った。この時間を大切にしたい。
今度は私が磯村さんを好きなようにする。彼はそれを楽しみながら私と愛し合う。そして心地よい疲労の中で二人は眠りに落ちていく。
明け方、磯村さんが寝返りを打ったので目が覚めた。彼の寝顔を見ていると抱きついてしまった。大好き! 私が抱きついたので目を覚めました。いつもなら彼の方が先に目覚めて、私を揺り起こして愛し合うところだった。けだるさの中でまた二人は愛し合う。
次に目が覚めたら8時を過ぎたところだった。磯村さんを起こさないように私はキッチンで朝食を作り始める。でもその音で目を覚ました。
「今日はいつもより早いね」
「今日は夕方に出かける予定がありますのでそうなったのかもしれません。気にしないで下さい。時間は十分ありますから」
「そうなの? 昨夜は忙しくて疲れているようだったけど、大丈夫?」
「十分に可愛がってもらったので、元気が出てきました。大丈夫です」
「じゃあ早めにお暇するよ」
「ゆっくりしていって下さい」
私はすっかり元気を取りもどしていた。好きな人に愛してもらうのが一番だ。私は幸せものかもしれない。二人の男の人に愛されている。なるようになる! なるようにしかならない! そう思うと気分が明るくなってくる。
一緒に朝食を食べたが、磯村さんは浮かない顔をしていた。私が昨夜からいつもとは違っていると感じたのかもしれない。
私は山路さんからプロポーズされているので、やっぱり嬉しくて、それが表情に出ているのかもしれない。
いつものように磯村さんはお礼を手渡して帰って行った。私は外まで出て見送った。磯村さんは直感的に何かを感じ取っていたかもしれない。いつもとは違って何度も振り向いて手を振っていた。
磯村さんは私が他の誰かとお付き合いしていることを薄々感じているのかもしれない。でもそうは思っても、またそう分かっても、磯村さんはそのことについて何か言ってくることはない。「ほかの人と付き合いのはやめてくれ」と言ってくれるのであれば、それはそれでとっても嬉しい。
ほかの誰かと付き合っているにしても、彼は絶対に言ってこない。結婚の約束をしている訳でもないし、恋人というわけでもない、せいぜい、愛人というような関係だからだ。
磯村さんは、今のところ、これ以上を望んでいない。これが彼らしいところでもあり、私の不満と言えは不満なところでもある。
今まではこれがベストの関係だった。ただ、山路さんにプロポーズされている今、私も踏ん切りをつけなくてはいけない。山路さんのためにも、磯村さんのためにも、そして私のために。