愛人ごっこのはざまで
7.山路さんの交際の申し込みを受け入れた
6時過ぎに山路さんが現れた。ここに突然現れてからまだ数日しか経っていない。私はカウンターの中で準備をしていた。開店したばかりなのでお客は誰もいない。
「もう開いているんだね」
「あら、お早いんですね」
「外で会議があって、直帰すると言ってここへ来た」
「何か召し上がりますか?」
「メニューある」
「どうぞ」
「オムライスをお願いします。これが子供の時から好きでね。それに水割り」
「私のオムライスは結構評判がいいんです。すぐに作ります」
私はすぐに水割りを作って、それからオムライスに取り掛かる。しばらくしてカウンターに運ぶと彼はすぐに一口食べた。
「お味いかがですか」
「まあまあかな」
「まあまあですか?」
「ごめん、まあまあは誉め言葉だ。それで先日の返事を聞きに来た」
「せっかちですね」
「思ったらすぐにやらないと気が済まない性格だからしょうがない、会社でもいやがられているけどね」
「お付き合いの申込み、うまくお付き合いできるか分かりませんが、お受けしようかなと思います」
「それはありがたい」
「お付き合いできるのは店が休みの日曜日と祭日だけですけど、よろしいですか」
「こちらも日曜日と祭日は休みだから丁度いい。普通に付き合うなら、それで十分だ。じゃあ、さっそく今度の日曜日にデートしよう。どこへ行きたい?」
「そう言われても、すぐに思い浮かびませんが」
「どこか行ってみたいところとか、何か好きなことはないの?」
「私、絵を描くのが好きなので、じゃあ美術館にでも連れて行ってくれませんか?」
「いいね、調べてメールでもしようか? その後、一緒に食事をしてくれる?」
「はい」
「待ち合わせ場所と時間はあとで連絡するから」
「分かりました。楽しみにしています」
ちょうど話がついたところに二人連れの客が入ってきた。彼はオムライスを食べ終えたので会計を済ませて店を出ていった。私は携帯の番号を教えた。
私は交際の申し込みを受け入れた。山路さんが普通に交際したいと言ってくれて嬉しかった。私のような女をまともに扱ってくれた。長い間通ってくれたので気心が知れているので安心ではある。どうなるかわからないけど、しばらく付き合ってみようと思った。
8時ごろ、携帯にメールが入った。
[交際を受け入れてくれてありがとう。日曜日3時上野公園の国立西洋美術館前で待ち合わせ、6時から新橋の和食店(個室)で会食の予定]
すぐに返信する。[分かりました。ありがとうございます]
山路さんとの約束の日曜日になった。店の外でお客と会うのはこれが初めてだった。それもあの山路さんとこういうことになろうとは思ってもみなかった。でも気持ちは嬉しさが半分と不安が半分で、どういう風に付き合っていけばいいか分からなかった。
今日は和服を着ていくことにした。店では時々着ているけど、外出するときに着るのはこれが初めてなので、長い時間着て歩いていると着崩れしないかと少し心配だった。でも山路さんはきっと喜んでくれると思う。せっかく誘ってくれたのだから、それくらいはして応えてあげないといけないと思った。
いつものように外出するときはめがねをかける。以前の仕事のこともあってあまり人目につきたくないからだ。
1回だけだけど、東京駅で以前の店の人に声をかけられたことがあった。先方も悪気があってのことでなく、どうしているか知りたかったのだろう。でも、とてもいやだった。
和服にして分かったけど、和服は人目に付く。美術館の前で山路さんが待っていてくれた。私が分かったと見えてこちらを見ている。
「和服を着てくれたんだ、素敵だね、とても似合っている」
「せっかくお誘いいただいたので、着てみました」
「自分で着られるの?」
「辞めてから昼間に着付けを習いに行っていました」
「目が悪かったの?」
「はい、いつもはコンタクトをしていますが、今日はメガネになりました」
「行こうか」
美術館の入口で二人が話していると人目に付く。山路さんが私と歩くと、それも和服を着ている私と歩くと、中年男が愛人を連れて歩いているように見えなくもない。すれ違う人たちが私たちを見ている。それを気にしながらもゆっくりと中に入っていく。
人気のあるフランスの印象派の絵画展は日曜日とあって結構混んでいた。私はこういうところは久しぶりだったので嬉しくて、しかも大好きな絵ばかりなので熱心に見て回った。
山路さんは見るスピードを私に合せてくれている。彼も熱心に絵を見ている。意外と趣味と言うか好みが同じかもしれない。
「絵を描くのが好きと言っていたけど、店にあった絵はひょっとして君が描いたの?」
「気が付きましたか、パステル画ですが私の絵です。そんなに上手くはないのですが、自分の気に入っているのを何点か飾っています」
「いつごろから書いているの?」
「小学生のころから絵が好きでした。本当はデザイン関係の仕事がしたかったのですが」
「いつ描いているの?」
「今はウィークディの昼間とかです。気が向いたらですが」
「今度、店に行ったらしっかり見てみよう」
「ほんの遊びですから」
ひととおり見て回ったあと少し疲れたところで、山路さんが喫茶コーナーで一休みしようと言ってくれた。ちゃんと気の付く人だ。
「絵画展なんて、久しぶりです。ありがとうございます」
「いつも日曜日は何をしているの?」
「大体、部屋で寝ているか、掃除、洗濯などをしています。お店の上に居住スペースがあるんです。今日も同じで済ませて来ました」
「へー、あそこに住んでいるの。職住接近で夜遅くなっても心配ないね」
「帰る心配がなくてとても安心です」
「買い物はいつするの?」
「店で出す料理の材料などはウィークディの午後に買いに行きます。人混みが苦手ですから」
「今日のようなスケジュールだと都合がいいんだね」
「そうですけど、朝からでもいいですよ」
「今度は朝から遠出してみようか」
「それもいいですね。たまにはどこか遠くへ行ってみたいです」
「考えてみるよ」
山路さんとなら遠出してみても良いと思った。結構気を使ってくれるから安心して一緒に行けると思う。
「もう開いているんだね」
「あら、お早いんですね」
「外で会議があって、直帰すると言ってここへ来た」
「何か召し上がりますか?」
「メニューある」
「どうぞ」
「オムライスをお願いします。これが子供の時から好きでね。それに水割り」
「私のオムライスは結構評判がいいんです。すぐに作ります」
私はすぐに水割りを作って、それからオムライスに取り掛かる。しばらくしてカウンターに運ぶと彼はすぐに一口食べた。
「お味いかがですか」
「まあまあかな」
「まあまあですか?」
「ごめん、まあまあは誉め言葉だ。それで先日の返事を聞きに来た」
「せっかちですね」
「思ったらすぐにやらないと気が済まない性格だからしょうがない、会社でもいやがられているけどね」
「お付き合いの申込み、うまくお付き合いできるか分かりませんが、お受けしようかなと思います」
「それはありがたい」
「お付き合いできるのは店が休みの日曜日と祭日だけですけど、よろしいですか」
「こちらも日曜日と祭日は休みだから丁度いい。普通に付き合うなら、それで十分だ。じゃあ、さっそく今度の日曜日にデートしよう。どこへ行きたい?」
「そう言われても、すぐに思い浮かびませんが」
「どこか行ってみたいところとか、何か好きなことはないの?」
「私、絵を描くのが好きなので、じゃあ美術館にでも連れて行ってくれませんか?」
「いいね、調べてメールでもしようか? その後、一緒に食事をしてくれる?」
「はい」
「待ち合わせ場所と時間はあとで連絡するから」
「分かりました。楽しみにしています」
ちょうど話がついたところに二人連れの客が入ってきた。彼はオムライスを食べ終えたので会計を済ませて店を出ていった。私は携帯の番号を教えた。
私は交際の申し込みを受け入れた。山路さんが普通に交際したいと言ってくれて嬉しかった。私のような女をまともに扱ってくれた。長い間通ってくれたので気心が知れているので安心ではある。どうなるかわからないけど、しばらく付き合ってみようと思った。
8時ごろ、携帯にメールが入った。
[交際を受け入れてくれてありがとう。日曜日3時上野公園の国立西洋美術館前で待ち合わせ、6時から新橋の和食店(個室)で会食の予定]
すぐに返信する。[分かりました。ありがとうございます]
山路さんとの約束の日曜日になった。店の外でお客と会うのはこれが初めてだった。それもあの山路さんとこういうことになろうとは思ってもみなかった。でも気持ちは嬉しさが半分と不安が半分で、どういう風に付き合っていけばいいか分からなかった。
今日は和服を着ていくことにした。店では時々着ているけど、外出するときに着るのはこれが初めてなので、長い時間着て歩いていると着崩れしないかと少し心配だった。でも山路さんはきっと喜んでくれると思う。せっかく誘ってくれたのだから、それくらいはして応えてあげないといけないと思った。
いつものように外出するときはめがねをかける。以前の仕事のこともあってあまり人目につきたくないからだ。
1回だけだけど、東京駅で以前の店の人に声をかけられたことがあった。先方も悪気があってのことでなく、どうしているか知りたかったのだろう。でも、とてもいやだった。
和服にして分かったけど、和服は人目に付く。美術館の前で山路さんが待っていてくれた。私が分かったと見えてこちらを見ている。
「和服を着てくれたんだ、素敵だね、とても似合っている」
「せっかくお誘いいただいたので、着てみました」
「自分で着られるの?」
「辞めてから昼間に着付けを習いに行っていました」
「目が悪かったの?」
「はい、いつもはコンタクトをしていますが、今日はメガネになりました」
「行こうか」
美術館の入口で二人が話していると人目に付く。山路さんが私と歩くと、それも和服を着ている私と歩くと、中年男が愛人を連れて歩いているように見えなくもない。すれ違う人たちが私たちを見ている。それを気にしながらもゆっくりと中に入っていく。
人気のあるフランスの印象派の絵画展は日曜日とあって結構混んでいた。私はこういうところは久しぶりだったので嬉しくて、しかも大好きな絵ばかりなので熱心に見て回った。
山路さんは見るスピードを私に合せてくれている。彼も熱心に絵を見ている。意外と趣味と言うか好みが同じかもしれない。
「絵を描くのが好きと言っていたけど、店にあった絵はひょっとして君が描いたの?」
「気が付きましたか、パステル画ですが私の絵です。そんなに上手くはないのですが、自分の気に入っているのを何点か飾っています」
「いつごろから書いているの?」
「小学生のころから絵が好きでした。本当はデザイン関係の仕事がしたかったのですが」
「いつ描いているの?」
「今はウィークディの昼間とかです。気が向いたらですが」
「今度、店に行ったらしっかり見てみよう」
「ほんの遊びですから」
ひととおり見て回ったあと少し疲れたところで、山路さんが喫茶コーナーで一休みしようと言ってくれた。ちゃんと気の付く人だ。
「絵画展なんて、久しぶりです。ありがとうございます」
「いつも日曜日は何をしているの?」
「大体、部屋で寝ているか、掃除、洗濯などをしています。お店の上に居住スペースがあるんです。今日も同じで済ませて来ました」
「へー、あそこに住んでいるの。職住接近で夜遅くなっても心配ないね」
「帰る心配がなくてとても安心です」
「買い物はいつするの?」
「店で出す料理の材料などはウィークディの午後に買いに行きます。人混みが苦手ですから」
「今日のようなスケジュールだと都合がいいんだね」
「そうですけど、朝からでもいいですよ」
「今度は朝から遠出してみようか」
「それもいいですね。たまにはどこか遠くへ行ってみたいです」
「考えてみるよ」
山路さんとなら遠出してみても良いと思った。結構気を使ってくれるから安心して一緒に行けると思う。