俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「俺はお前をひとつずつ知っていける今が一番幸せだが?」

「どうして……?」

「お前との距離が近づいて、以前よりもっとお前を想える」

ぎゅっと心を鷲掴みにされた気がした。

切なくて甘い痛みが胸の中に広がっていく。


この人は、なんでこういう台詞を照れもせずに口にできるの?


「詠菜、ずいぶん時間が経ってしまったが、傘をありがとう」

そう言って、唐突に彼が差し出したのは私が以前に貸した折り畳み傘だった。


「これ、ずっと持っていてくれたの?」

「当たり前だろ。お前と俺の縁を繋いでくれたんだ。俺にとってはなによりの宝物だ」

三日月形に細めた目で、照れもせずに言ってのける夫に私のほうがうろたえる。


「ありがとう……」

お礼を伝えて、両手で受け取る。


「それは俺が言う台詞だろ? この傘のおかげで俺はお前ともう一度話せた」

クスリと声を漏らす采斗さんに胸が詰まる。

ただの折り畳み傘にそんな思いを向けてくれるなんて、出会いをそんな風に考えてくれていただなんて知らなかった。


「苦手な食べ物やアレルギーはあるか?」

「い、いえ、特にありません」

「へえ、俺と同じだな。ほら、これでまたひとつ俺はお前を知れた」

そう言って、頬を緩める。


たった一言。


ただそれだけなのに、心が痛いくらいに甘く締めつけられる。

その痛みをやり過ごすかのように、しばらくは片付けに没頭していた。


買い出しに行くという彼に付き添おうとしたが、作業を続けていろと断られた。
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