俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
キッチンからは軽快な包丁の音や、なにかを炒める音が響いていた。

窓から見える空が宵闇に染まりかけた頃、食欲をそそる匂いが漂ってきた。

ふいに壁にかけられた時計を見ると午後六時半を過ぎていた。


「ずいぶん片付いたな」

開け放したドアの背後から声をかけられて、肩が跳ねた。

思った以上に集中していたようだ。


「は、はい」

「食事の準備ができたが、どうする?」

「いただきます、ありがとうございます」

返事をして、立ち上がると腕をグイッとひかれた。

ぽすん、と彼の胸の中に受け止められ、唇が塞がれる。


「さっきから使っていた、敬語のお仕置き」

さらに私の唇の端に小さなキスを落とす。

その仕草に一瞬で体温が急激に上がった。

突然の出来事に声が出ない。


「用意するから手を洗って来いよ」

こめかみに唇で触れて、彼が部屋を出ていく。

結婚したての夫が、こんなにも甘いなんて誰も教えてくれなかった。


采斗さんが作ってくれた食事は鮭とほうれん草のクリームパスタにミネストローネ、トマトのマリネ、サラダといった豪華なものだった。

見るからに美味しそうな献立に私の目が輝く。

用意してくれたミネラルウォーターはもちろん、自社製品のものだ。


「すごい、私、こんなの作れない……」

感嘆の声を漏らすと、采斗さんが困ったように眉尻を下げた。


「感激してもらえて嬉しいが、手の込んだものではないぞ?」

「十分手が込んでます」

「それはよかった。じゃあ食べよう」

「はい」
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