俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
ふたりで広い六人掛けのダイニングテーブルに向かい合って座る。

いただきます、と手を合わせて料理に舌鼓を打つ。


「美味しい!」

「口に合いそうか?」

「もちろん」

喜ぶ私を、食事の手を止めて彼が見つめる。


「なに?」

「食べている姿が可愛いなと思って」

「えっ」

焦る私を見てフッと口元を綻ばせる。


「こうやってゆっくりお前と食事をするのは初めてだからな。妻の知らなかった姿を見れるのは嬉しい」

真っ直ぐすぎる意見が胸を打つ。

もはや緊張とは違う、激しい焦りで味がわからない。


「ついてるぞ」

そう言って私の口元を指で拭い、躊躇いもせず舐める。

その仕草に胸の高鳴りが抑えられなくなる。

ただ食事をするだけで、なんでこんなにも色気があるのか教えてほしい。


「少し濃かったか?」

私の心の葛藤なんて知る由もない夫は、呑気に味を確認している。

こっちは手が震えないように必死だというのに。

どんどん火照っていく頰はもう止められない。


結婚初日から振り回されてばかりだ。

こんな調子で私はこの人の妻を一年も務められるのだろうか。

ふいに浮かんだ期限が、胸に重くのしかかる。


今頃になってなぜこんなにも気持ちが落ち込むの?


あまりに大事にされすぎて、甘やかされてしまって、期限と目的を忘れそうになる。


この人が私を欲したのは恋愛感情じゃない。

お互いの利益を満たすためなのに。


この人の心は、決して私のものにはならない。

わかっているのに、なんでこの人の気持ちや態度が気になるの? 

なぜこんなにも胸が痛いの? 


迷いを振り払うかのように無理やり呑みこんだパスタは、とても塩辛かった。
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