俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「――ああ、すみません。失礼どころか貴重な意見が聞けてとても光栄で。申し遅れましたが私、日野原と申します」

長い指で差し出された一枚の名刺を、反射的に両手で受け取る。


……日野原?


どこか聞き覚えのある名字。

ゆっくり手元の名刺に視線を落とす。


『日野原飲料株式会社 取締役副社長 日野原采斗(あやと)


文字を読み取った途端、サーッと身体から血の気がひいていく。

まさかこの人が自分の勤務先の副社長、しかも経営者のひとりだったなんて。


そんな人に私はなんて話を……!


「す、すみません。まさか日野原飲料の方とは存じ上げず……!」

「気になさらないでください。素直な感想をいただけて大変有難いです。ちなみに私はストレートティーも好きですが、フレーバーティーが最近は気に入っています。それで……」

ふと言葉を切った彼が、私の手の中にある名刺を取り上げた。

スーツの内側から取り出したペンで、なにかをささっと書き入れる。


「プライベート用の連絡先です。あなたに大変興味を持ちました。連絡先を教えてください」

切れ長の目が優しく細められる。

出会った時の硬質な雰囲気が一気に霧散する。


興味? 


「あの、どういう意味ですか?」

「言葉通りですよ。連絡先を伝えようとしたら、いきなり走り出す。先ほどの女性との件を他言しないようお願いするために誘えば、目の前の私より飲料に夢中になる。あなたのような女性に初めて出会いました」
< 11 / 221 >

この作品をシェア

pagetop