俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「詠菜、顔が赤いが熱でもあるのか?」

心配そうな声にハッと我に返る。

気づけば、采斗さんが端正な面差しを曇らせて私を見つめていた。


「だ、大丈夫」

そっと額に大きな手が触れる。


「熱はないみたいだな」

「本当に平気だから」

「そうか? 無理はするなよ」

離れていく手の温もりに、一瞬の寂しさを感じる。

こんな気持ちはおかしい。 


「あの、私、支度するので部屋に戻るね」

勢いよく起き上がって、ベッドから降りる。

熱くなった頬をこれ以上見られたくなくて、うつむきがちに自室へとつながるドアへ向かう。


「詠菜、一緒に出勤するか?」

背中から夫の甘い声が追いかけてくる。

冗談とも本気ともつかない言い方に、思わず足が止まる。


「し、しません! バレたら困ります」

「残念」

ドアを開ける私の背後でクスクス楽しそうな声が聞こえる。


……絶対に面白がっている。

自室に戻った私の膝が崩れ落ちる。


からかわれてるだけだってわかってるのに、どうしてこんなにも動揺して心がヒリヒリするの?


いつまでも落ち着かない心を無視して、手早く身支度を整える。

ただでさえいつもと勝手が違うので手間取ってしまう。


しっかりしなくては。

ギュッと胸のあたりで拳を握りしめる。
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