俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「びっくりしたわ! まさか副社長が会話に入ってこられるなんて。道木さん、よく平然としていたわね。私なんて、見て。手に汗がびっしょりよ」

ふう、と大きな息を吐いた廣田さんに話しかけられる。


「いえ、緊張していましたよ。副社長とお話する機会なんてないので……」

今朝までずっと一緒でした、なんて口が裂けても言えない。


「そう? ねえ、それよりも今、副社長の左手を見た?」

「左手、ですか?」

「薬指に指輪をはめてらっしゃったわよね? もしかしてご結婚されたのかしら?」

「えっ!?」

思いがけない廣田さんの言葉にうろたえてしまう。


嘘でしょ、指輪をはめたまま出勤したの?


叫びそうになるのを必死にこらえる。

「すみません。緊張していて見ていません」

「私の見間違いかしら? でも絶対に指輪だったと思うんだけど。もしご結婚されたならすごいニュースよね……って駄目ね。さっき皆の噂話を止めたばかりなのに、私が率先していたら元も子もないわ」

「あの、副社長と如月さんはご友人同士なんですか?」

話題を変えるべく廣田さんに質問する。


こんな詮索をしてはいけないとわかっているのに、なぜかふたりが連れ立って歩く姿、気安い会話に心が乱されていた。


「そうみたいね。過去に交際していたとか色々言われているけれど、誰も真相は知らないの」

「そうなんですか……」

「道木さんも副社長のファン?」

「ええっと、その、すごく素敵な方だと思います」

「あの外見に優秀な頭脳、おまけに独身の御曹司だものね。あら嫌だ、引き留めてごめんなさいね。とにかく気落ちしないで頑張ってね」
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