俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
クックッと心底おかしそうな声を漏らす姿に居たたまれなくなる。

先刻とはまったく違う意外な姿に驚きを隠せない。

この男性は、本当は厳格な人ではないのかもしれない。

だって眉尻を下げた面差しはとても柔らかく、刺々しさがない。

なぜかその表情から目が離せなくなる。

胸の奥がざわめいて、なんだか落ち着かない。

「た、他言もなにも、あの女性がどこのどなたかも知らないのでご心配は不要です」

「ええ、そのようですね。でもあまりに凝視されていたのでご存知なのかと」

にっこりと口角を上げる姿はどこまでも麗しい。

けれどしれっと言われたのは軽い嫌味。


口止めのためにわざわざここまで追いかけてきたの? 

どれだけ用心深いのよ。

しかも私が言いふらすのではと邪推されていたなんて。 


「他人の恋愛事を吹聴するつもりはありません」

「恋愛事ではなく、ただの縁談話です」

躊躇いもせずにハッキリと否定する姿は清々しいくらいだ。

「傘のお礼をさせてください。私の秘書があなたの傘を持って、一階で待っています。道木(みちき)さんの連絡先を教えてください」

突然名字を呼ばれて戸惑う。

けれど記帳する姿を見られていたせいか、とすぐに納得する。

もうひとりの男性は秘書なのだと今頃になって気づく。

丁寧な口調なのに断れない雰囲気がビシビシ伝わってくる。
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