俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「何度も申し上げていますが、傘の返却もお礼も不要です。元々私の不注意が原因ですから」

心の動揺を隠してきっぱり返答する。

とにかく、ここから一刻も早く立ち去りたい。

これ以上副社長の前で失態を見せたくない。

ましてや社員だと気づかれたくない。


そもそも縁談相手に連絡先を教えるの渋ってたはずよね? 

なんで私にこんな簡単に教えて、しかも尋ねてくるの?


受け取った名刺には携帯電話の番号らしきものが書かれている。

副社長の真意がよくわからない。

理解できるのは一筋縄ではいかなそうな人物ということだけ。

……社内で聞きかじった噂とは違いすぎていて戸惑いを隠せない。


「それでは失礼いたします」

くるりと踵を返した途端、右手首に副社長の指が触れる。


「……このまま帰すと思いますか?」

振り返りざまに耳元で囁かれ、ドクンと鼓動がひとつ大きな音をたてた。

間近に迫る眼差しにはそこはかとない色香が漂い、こんな状況なのに見惚れそうになる。

長く綺麗な指にはまったく力が込められていないのに、引き寄せられてしまう。

副社長と私の距離はごく僅かだ。


「興味を持った、って言わなかった?」

ふいに崩れた言葉遣いが胸に響く。

からかうような低い声が耳を震わせる。

触れられた場所が熱く、鼓動が一気に速いリズムを刻みだす。
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