俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
夢の中で誰かがそっと私の髪を撫でている。


「本当に可愛いな」

ハチミツのような甘い声がどこからか聞こえてくる。


額と唇に触れる柔らかな感触はなんだろう。

確かめたいのに、なぜか瞼も身体も重くてうまく動かせない。


「詠菜」


こんなにも優しく私の名前を呼ぶ人なんて、たったひとりしかいないのに。


「俺の詠菜」


聞き覚えのある低い声に、重い瞼を押し上げる。

「おはよう」

至近距離には私の髪を梳く美麗な面差しの夫の姿。


「采斗、さん……?」

「今日はいつもよりも寝起き姿が可愛いな」

極上の笑みを浮かべる夫に瞬きを繰り返す。

なぜか私の顔を覗き込む夫の上半身は裸だった。


……ちょっと、待って。


夫の見慣れない姿を目にした瞬間、私の頭が猛スピードで覚醒する。


そうだ、私、昨日采斗さんと……!


思い出した途端、羞恥で一気に頬が熱くなる。

思わずシーツの中に隠れようとする私の身体をぎゅっと采斗さんが自身の胸に引き寄せる。


「残念、起きたのか? 寝ぼけてる姿が可愛かったのに」

そう言ってつむじに小さなキスを落とす。

むき出しの肌に直接伝わる体温が落ち着かない。


「今日は休みだし、ふたりきりでずっと一緒に過ごそう」

色気の交じった声で囁かれて心音が大きな音を立てる。


それは甘い甘い週末の始まりだった。

その幸せに浸っていた私はしばし彼の想い人の存在を忘れてしまっていた。
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