俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす～お前は誰にも譲らない～
「日野原副社長に誘われたからじゃなかったんですか？」

口にした途端、鼓動が嫌な音を立てる。


詮索したいわけではない。

でも今しか尋ねるタイミングがない気がした。

確認したところでなにも変わらないとわかっていても。


「違うわよ。確かに入社試験を受けてみれば、とは言われたけど。なんでそんな誤解を……ああ、噂のせい？」

察しのいいチーフはわかったようだ。

気まずさに思わず下を向く。

自分から水を向けるような真似をしているとわかっているのに、直視する勇気がもてなかった。


「私は自分でこの会社を選んで就職試験を受けたの。ついでに言うと私たちが恋人だとかいう話も根拠のない噂よ。私たちは学生時代からそんな関係になったことは一度もないもの。第一、副社長はこの間ご結婚されたじゃない」

呆れたようなチーフの声が耳に届く。


「副社長を拝見していると、奥様を本当に大事に想ってらっしゃるのがよくわかるわ。大好きな人と結ばれるなんて羨ましい限りよね」

ほんの一瞬、如月さんの表情が翳った気がした。


「私の知る限り、女性への贈り物になんて無関心だった方が誕生石を入れた指輪を奥様に贈りたいとかおっしゃってたのよ」


誕生石？


無意識に隠したネックレスに視線を向けてしまう。

私の誕生月は五月、誕生石はエメラルドだ。

指輪に埋め込まれているのはダイヤモンドだ。


もちろん私の誕生石ではない。

その情報に心が冷え切っていく。


きっとそれは本当に愛する人へ贈る指輪の話。

私にあてたものじゃない。


私の持つ指輪にはなんの意味があるの？
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