俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「そうだけど……どうしてもまだ決心がつかなくて」


 本心だって、今すぐ別れたいって言われたら?

 受け入れる覚悟がまだ今の私にはできていない。


「先送りにしても、意味がないのよ」

「わかってる」

「それにしても食欲不振って……夏バテにしては時期も過ぎてるし。あ、もしかして生理前?」

食事中だけど、と少し申し訳なさそうな表情を浮かべて小声で親友が呟く。


「私、生理前って身体が重たいし、少しの時期食欲が減退するのよ」

「そうなの?」


生理?

ちょっと待って。

私、前回生理が来たのはいつだった?


私の周期はいつも規則正しい。

今まで周期が乱れたのは二回くらいしかない。

いずれもひどい風邪をひいたなどの体調不良時のみだ。


今、私は風邪はひいていない。

それなのに恐らく半月以上は遅れている。


なにより今の私には遅れる理由として思い当たる出来事がある。

彼に想いを伝え、結ばれたあの日の幸せな時間が脳裏に浮かぶ。


もしかして……、でも、まさか?


「詠菜? 顔色が悪いけど、本当に大丈夫?」

雛乃の声にハッとする。


「う、うん。大丈夫、今日は早めに帰って身体を休めるわ」

無理やり口角を上げる。


今の時点で親友には話せない。

きっと心配させてしまう。


「そうね、それでも調子が悪かったら病院に行きなさいよ」

「そうする」

「今日は旦那様の帰りは早いの?」

「今夜は会食で、明日は札幌支社に出張だって聞いてる」

「相変わらず多忙ねえ、なにかあったら遠慮なく連絡してね」

「うん、ありがとう」


思いがけない事態に動揺する心を必死に押し隠して返答し、昼休みをやり過ごした。
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