俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
それから店に向かう道程はお互いに無言だった。

少し前を歩く上司の横顔はいつもと変わりなく見えた。

対する私は動揺が隠しきれず、指先が冷え切っていた。


遅い時間帯のせいか、三つある四人掛けのテーブル席は空席で五人ほどが座れるカウンター席にひとりだけ先客がいた。

私たちはテーブル席に向かいあって座る。


如月さんはスマートフォンを少し操作して、自身のバッグに入れた。

店員が水を給仕してくれる。


「ホットコーヒーひとつと……あなたは?」

メニューを差し出される。

「ミックスジュースを、ください」

注文を聞き終えた店員が離れた途端、如月さんが口を開く。


「ミックスジュースがあったのね、私もそれにしたらよかったかしら」

「え?」

「ミックスジュースってたまに無性に飲みたくならない?」

屈託なく話す姿からは悲壮感は微塵も感じられない。

このお茶会の意図がわからず困惑する。


「回りくどいのは嫌いだからはっきり言うわね。道木さん、さっき副社長室の前にいたでしょ?」

ひゅっと息を呑む。

テーブルの上に置いた指がカタカタ震えだす。


「誤解しないで、咎めたいわけじゃないの。私たちが話していた内容を聞いたんじゃないかと思ってたの」

「は、い……」

ここまで言われて嘘をつくわけにはいかず、正直に肯定する。
< 181 / 221 >

この作品をシェア

pagetop