俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「あなたには以前、きちんと話したでしょう?」

「で、でも如月さん、その時、大切に想う人がいるとおっしゃってましたよね?」


『なによりも誰よりも大切な人に幸せになってもらいたい気持ちはよくわかるの。たとえ自分が選ばれなかったとしても、その人の力になりたいって想いもね。ティアラはそんな願いを込めて作った商品なの』


電車での会話が思い出される。


「言ったわ、でもあれはうちの副社長の話じゃないわよ」

「でも、ティアラに願いを込めたって……」

「同じ業界他社の人なのよ。その人に少しは成長したところを見てほしかったの。仕事で結果を出せば、離れていても私の存在を少しは忘れずにいてくれるんじゃないかと思ってね」


そう言って僅かに頬を染める上司はとても魅力的だった。

店員が注文した飲み物を持ってきてくれて、如月さんはカップに手をかける。


「もう何年も片想いしているの。見込みもないし、いい加減に諦めなきゃいけないんだけど」

「片想い、ですか?」

「ずっと友人だと思っていたの。なのに海外勤務になっていつ帰国するかわからないって突然言われて、信じられないくらい動揺したの。そこで初めて自分の気持ちに気づいたの」

情けないでしょ、と困ったように眉尻を下げる上司。


如月さんが片想いだなんて、にわかには信じられない。

けれど、自嘲気味に呟く様子はどこか切なげで胸が詰まった。


片想いのもどかしさや切なさは今の私には痛いほどわかる。

それを何年も続けてきたのならきっと想いが溢れそうになる時も多かったのではないだろうか。
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