俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
けれど俺は詠菜に出会った。

写真展まで追いかければ、心底迷惑そうな表情を隠そうともしない。


なのに飲料の話題になると、驚くほど生き生きと積極的に話し出す。

それなのに名刺を差し出しても驚くだけで、俺の申し出をすべて拒否する。


しかも最後には逃げ出す始末。

そんな女は今までひとりもいなかった。


藤堂に『無類の飲料好き』とよく言われる俺は、飲料の話や仕事にのめりこむところがある。

だから詠菜の姿にはとても共感できた。


俺よりずいぶん小柄で華奢なのに、目を逸らさずに堂々と意見する。

そこにはなんの媚も嘘もなく、清々しさしかない。


揺さぶられる感情と触れたい衝動を抑えきれずに出会ってすぐに触れてしまった。

その瞬間、震えた心に俺は恋に落ちたと知った。


こんなにも誰かを欲して、大切に想った経験はない。

会うたびに、彼女を知るたびに、どんどん惹かれてこの気持ちに際限はないと思い知った。


一日も早く自分のものにしたくて、性急にプロポーズをしてしまった俺は本当にカッコ悪い。

それでもそれ以外に方法が見つからなかった。


今まで、なんとも思っていない相手には冷静に対応できていたのに、情けない限りだ。

誰かに奪われたらと不安で怖くて仕方がなかった。


特に詠菜の元恋人の存在は許容できるものではなかった。

明らかに彼女に未練がある元彼に彼女は俺のものだと見せつけたのは仕方がないと思う。

そのおかげで詠菜に結婚を受け入れてもらえたのは癪に障るが。
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