俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
――いいことばかりは続かないとはよく言ったもの。


会社のエントランスを抜けてエレベーターホールに向かう途中も、周囲に注意を払う。


大丈夫、社内でそう簡単に遭遇しないはず。

そもそもあの人は私が社員だと気づいていなのだから、気にしすぎよ。


そう言い聞かせるのはもう何度目だろう。

思わず大きな溜め息が漏れた。

副社長の容姿を今まで知らなかった事実が悔やまれる。

とはいえ、一般社員の私には役員フロアなんて縁もないし、業務で関わりもないのだから仕方ない。


『詠菜は飲料以外の出来事に無頓着すぎるの』


親友の苦言が頭を掠める。

今まで聞き流してきたお説教も今後は真面目に聞こうと心に固く誓う。


私は日本橋にある本社から一時間ほど電車を乗り継いだ実家で両親と暮らしている。

商品企画課への配属を希望していた時期もあったが、入社以来総務課で勤続六年目となった今はこの仕事にやりがいを感じている。


我が社では部署を問わず新商品の企画や意見を応募する機会が多々ある。

認められれば企画開発チームに参加でき、商品化まで携われる。

もしくは大掛かりなプロジェクトチームへの参加を募集する場合もある。

上司からの推薦などが大多数だが、自らの応募も可能だ。

それがきっかけで認められ、部署を異動する人もいる。

過去に私も数点、企画書を提出した経験がある。

結果は不採用だったが、企画部長が褒めてくれていたと直属の上司である、大木(おおき)課長が教えてくれた。

課長は企画応募を積極的に推奨している、部下からの信頼の厚い人だ。
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