俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「元々水面下では今回両社が手を組んでこの事業に携わってみては、という話もあったのよ。先方も実際に甲乙つけがたいとおっしゃっていたの。それなら、って具体的な話をしていたのが、昨夜だったの」


昨夜って……私が立ち聞きしてしまった時?

だから藤堂副社長が来社されていたの?


「業務提携のお話、素敵ですね。お互いに案を持ち寄って商品化できるなんて今からわくわくします」

「あなたの元恋人には下手な手出しはさせないと藤堂副社長がおっしゃっていたわ。もちろん越智さんとできるだけ接触しないように配慮するわ」

「いえ、仕事ですから。でもお気遣いをありがとうございます」

「まったくあなたのほうがずいぶん大人よね、副社長なんてそれは面白くなさそうだったのよ。ものすごく私情を挟みそうだったから、この件は私から説明するって申し出たの」

「大事な妻を気にかけるのは当然だろう」

突然、背後から響いた低い声。

振り返ると不機嫌そうな表情を浮かべた副社長がいた。


「お気持ちは察しますが、個人的な感情を挟みすぎです」

如月さんが冷たく言い返す。


「詠菜、本当に大丈夫か?」

そっと頬に手が伸ばされる。


「平気、心配しすぎよ。元恋人にはなんの未練もないと説明したでしょう」

「仕方ないだろ、気になるのだから。それでなくても今は身体も大事な時期だろう」

照れもせず言ってのける夫に頬が熱くなる。


「まったく、道木さんには弱いですね」

「お前も俺と同じ立場になればわかる」

如月さんはこれ見よがしに溜め息を吐く。


「道木さん、本当に構わないの?」

「詠菜、我慢しなくていいからな」

「はい、本当に大丈夫です。よろしくお願いします」

ふたりをかわるがわる見つめながら返事をすると、副社長と如月さんはお互いに頷きあった。


「――わかった。じゃあその方向で調整しよう」

それは新たなプロジェクトの始まりだった。
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