俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
玄関ドアを開ける微かな音に気づき、廊下を足早にかつ慎重に歩く。


「ただいま」

「お帰りなさい」

帰宅した采斗さんと目を合わせて交わす挨拶。

この何気ない日常をとても幸せだと思う。


「いい匂いがする」

「今日の晩御飯は炊き込みご飯なの」

「へえ、楽しみ。仕事で疲れているのにありがとう。気分は大丈夫か?」

そう言って彼はそっと私を胸の中に抱きしめる。

その瞬間、この人の帰宅を認識してホッとする。


体の変化とともに食べ物の匂いなどにもずいぶん敏感になっている私を気遣ってくれる。

今ではこうして彼に抱きしめられるとドキドキもするがなにより心地よくて、自分の居場所を見つけたみたいで安心する。

彼の胸の中はほんの少し外の香りがした。


「ううん。采斗さんも毎日たくさん手伝ってくれるでしょう?」

そうなのだ。

元々家事全般はほとんどしてくれる人だったが、今もそれは変わらない。

むしろ私が家事をしようとすると率先して取り上げてくる始末だ。


妊娠は病気ではないし、少しは休んでほしいと私が伝えると『詠菜を甘やかして世話をできるのは俺だけの特権だろ?』と見事なまでの微笑みを贈られてしまった。
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