俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「すぐ泣く」

「だって、嬉しくて」

私を宥めるように目尻に小さなキスを落とす。


「お前に関する話を俺が忘れるわけないだろう? どれだけお前を愛してると思う? ああ、もちろん先生にも挙式を行っていい時期の確認はしているから安心しろ」

傲慢な台詞なのに、声はハチミツのように甘い。


心配性な夫は宣言通り、ともに産婦人科を嬉々として受診してくれた。

担当医となってくださった先生は些細な相談事もしやすい温和な方だった。

私よりも熱心に質問をする夫を先生は少し驚きながらも嬉しそうに答えていた。


『頼もしい旦那様ですね。安心して出産準備ができますね』

と言われたのは先日の健診だったか。

本当にこの人には敵わない。


「詠菜、返事をして」

優しい催促。


早く返事をしなくちゃ。


そう思うのに、幸せな申し出に胸が詰まって声が出ない。

溢れる涙を止めるのすら困難だ。


「……あなたと結婚式を挙げたい」


嗚咽混じりの返答をする。

その瞬間、強い力で抱きすくめられた。


「よかった。ありがとう、詠菜」


ありがとうは私の台詞なのに、どこまで私を甘やかしてくれるの?


そっと唇が重なる。

私たちの一足早い誓いのキスは涙の味がした。


「今さらだけど、やっぱり婚約指輪を贈らせて」

「でも、これまでにもたくさん贈ってもらっているのに」

「それは別。俺の決意というかけじめとして」

真剣な声で言われて、躊躇いながらも了承する。


「今度の休みに一緒に見に行こう」

そう口にする夫の声はとても嬉しそうで、私も心が温かくなった。
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