俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす～お前は誰にも譲らない～

会社から徒歩五分ほどの距離にある蕎麦屋は美味しくて値段も手頃なので、昼食時にはいつも混雑している。

店内には四人掛けテーブルが五つに十席ほどのカウンター席がある。

タイミングよくひとつだけ空いていた四人掛けのテーブル席に座り、雛乃は鶏卵そばを私はかやくそばを注文した。


「なにかあったの？」

突然尋ねられて、頬が強張った。

さすが親友、鋭い。

「な、なにってなにが？」

「社内でもやたらキョロキョロしてるし、さっきも妙に周囲を気にしてたでしょ」

「ええと、あったといえばあったんだけど……」

視線で先を促す親友に誤魔化しは通用しないと諦め、週末の出来事を包み隠さず話した。



「――へえ、まさかの副社長！　すごいじゃない」

「ちょ、ちょっと雛乃、声が大きい」

「ごめん、びっくりしちゃって。でもこれだけ人がいて騒がしいんだから大丈夫よ」

「そうかもしれないけど、気をつけてよ。どこかで会わないかヒヤヒヤしているんだから」

「そんな偶然なかなかないわよ。社内で副社長に遭遇する確率はかなり低くて有名なんだから。詠菜だって社内で今まで会っていないでしょ？」

言われてみれば確かにそうだ。