俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「そんな大袈裟な」

「嘘じゃないわよ。副社長の名だたるご令嬢たちへの敬遠オーラは凄まじいうえに、言い寄ってくる相手には容赦ないって専らの噂よ。思わせぶりな態度はおろか甘い言葉のひとつも囁かないって」

「……すごいね」


現在三十一歳の副社長は容姿端麗、頭脳明晰なうえに、副社長就任以降は業績も右肩上がりでその素晴らしい経営手腕は他業種からも注目されているらしい。

どこまでも完璧すぎて最早驚きしかない。

扱いに困って財布に入れっぱなしになっている名刺に思いを馳せた。

自分の名刺をあの日携帯していなかったのは幸いだった。


「他社と自社で経験を重ねてきた、かなりの切れ者だってこの業界では評判よ。どんな時も焦らず冷静、かといって人当りも決して悪くない。ちなみに申し込まれる縁談は多忙を理由に秘書を通して、軒並み断られているそうよ」

脳裏にあの日の冷酷な態度を思い出す。

「へえ……」

「せっかく貴重な情報を教えてあげたんだから、もっとキラキラ目を輝かせるとか、乙女な反応をしてくれる? その噂の副社長とふたりきりで過ごしたくせに」

「望んでふたりきりになったわけじゃないの。そもそもなんで教育センターにいたんだろ?」

不思議に思いながら蕎麦に舌鼓を打つ。

相変わらず出汁の香りが素晴らしい。
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