俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「か、傘の件でしたら、処分していただければ……」

「なぜあの時逃げた?」

会話がまったく噛み合っていない。


「どうして連絡してこない?」

次々に繰り出される質問。


「答えろ」

責めるような低音に肩がビクリと跳ねる。


なんでこんな態度を取られなくちゃいけないの? 

逃げ出したのは失礼だったかもしれないけれど、もとはと言えばこの人が追い詰めてきたせいなのに。


そう思うと、段々腹立たしくなってくる。


「……関わりたくなかったので」

「は?」

鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる副社長。

見開いた綺麗な目には戸惑いが滲む。

「勤務先の副社長ですし、もめ事にも巻き込まれたくなかったので」

修羅場、と言わなかった自分を褒めてあげたい。

きっとこの人にはその場しのぎの誤魔化しは通用しないだろう。

それなら正直に話したほうがいい。


「そんな理由で逃げたのか? 駆け引きとか切り札とかでなくて?」

「すみません、なんの駆け引きですか?」

「ハハッ」

突如響いた笑い声に今度は私が目を見開く。

副社長は扉についた手を外し、心底おかしそうに肩を小刻みに揺らす。

既視感のある光景に瞬きを繰り返す。


「関わりたくない? ――ありえないだろ」

「え?」

「面白い」


今の会話のどこにおかしい要素があるの?
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