俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
頬にかかる髪をスッと耳にかけられて、頬が熱を帯びる。

そのまま、顎を掬い上げられた。


強引な仕草なのに、触れる指先はどこまでも優しくて胸がきゅうっと締めつけられる。

欠点ひとつ見当たらない完璧な容貌が心底恨めしい。


「興味を持ったと、あの日言っただろう? この間は逃がしてやったが、二度目はない」

脳裏に出会った日の記憶が蘇る。


あれを、逃がしてもらったと言うの?


「どうしても俺はお前が欲しい」

色香を含んだ声が耳を震わせ、真摯な眼差しが私を射抜く。


「諦めるつもりはないから、さっさと覚悟しろよ?」

「無理、です……!」

声が震える。

必死に冷静さを取り繕っていた仮面がボロボロ崩れ落ちていく。


私はこの人をなにも知らないのに。

出会って、数分間言葉を交わしただけなのに。

なんで結婚なんて話になるの?


「否定の言葉は受けつけない」


どれだけ横暴なの!


顎から指を離した彼にグッと腰を引き寄せられる。

ふわりと漂う香りは、悔しいくらいに私の心をかき乱す。


「詠菜」

 睨みつける私を面白がるように見つめてくる、そんな様子さえ腹立たしい。


一体なんの冗談?



「お、お断わりします」

上ずった声で拒絶の意思を示す。


「絶対に逃がさない、って言ったら?」

挑戦的な光が綺麗な目に滲む。
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