俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
落ち着いて、ここで取り乱したら副社長の思うつぼだ。


すう、と小さく深呼吸をする。

「……副社長のお相手は私では務まりませんので」

「決めるのはお前じゃない、俺だ」

潔いくらいきっぱりと否定される。


――コンコン。

息苦しいほどの沈黙を破ったのは軽快なノックの音だった。

「副社長、失礼いたします」

扉越しに聞こえる声は笹野さんの声だった。

 
「……残念。邪魔が入った」

そう言ってするりと副社長が私の腰を解放する。


その瞬間、私はサッと扉のすぐ右脇にずれて距離をとる。

入室してきた笹野さんは私を一瞥して、眉間に皺を寄せて言い放つ。


「副社長、強引な振る舞いは嫌われるうえに、セクハラで訴えられますよ。どうしてこんな場所で立ったまま話されているんです?」

「逃げた理由を聞いていただけだ」

片眉を上げて堂々と言い放つ。


まったく動じていない様子が憎らしい。

こっちは心臓が壊れそうだというのに。


「まさか、また逃げられるような真似を?」

「あ、あの私はこれで……」

失礼します、と言いかけた時、再び声をかけられた。


「まだ話は終わっていない。忘れ物があると言っただろ?」

「傘でしたら、差し上げますので」

「これはお前のものか?」


相変わらず、私の話をちっとも聞こうとしない。

歯嚙みする私をものともせず、すぐそばにあるソファのセンターテーブルの上から副社長は数枚の紙を長い指で取り上げる。
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