俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「あの、百合子さんって」

「当社創業者の妻だ」

私の動揺を正確に察知した副社長が教えてくれる。


創業者の奥様?


日野原飲料株式会社創業者の凄腕の経営手腕は、今や伝説の如く語り継がれている。

その奥様が、百合子さんだったなんて。

言われてみれば、纏う雰囲気は副社長と少し似ているし、なによりふたりともとても整った容姿をしている。


なんで気づかなかったの、私……。


副社長と同じ名字だとは思ったけれど、血縁者だとは思いもしなかった。

しかも創業者夫人という立場の方を、気安く名前で呼んでしまった。

自分の鈍感さが嫌になる。


違う意味で気が遠くなりそうな私の隣で、百合子さんが私と知り合った経緯を説明している。

副社長の背後には笹野さんの姿が確認できた。

彼は百合子さんの荷物をテーブルから腕に取り上げている。


「本当に詠菜さんにはお世話になりっぱなしなのよ。今日はご友人の結婚式用の靴を探しに来られたんですって」

「そうですか」

ふわりと相好を崩して、私に視線を向ける副社長。

言外に込められる意味を邪推しそうになる。


「お車はすぐそこに停めてあります」

笹野さんが抜群のタイミングで声をかける。
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