俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「あの、どうぞお気をつけて。気安い呼び方をしてしまい申し訳ありません」

焦って口にすると、立ち上がった百合子さんが驚いたように目を見開いた。

「まあ、どうして? 私がお願いしたんだからこれからもそう呼んでちょうだい。堅苦しいのは嫌いなのよ」

「でも……」

ちらりと副社長に視線を移すと、小さく首を傾げて返答される。

「祖母がいいと言っているのだから気にする必要はない」

踵を返すふたりに慌てて頭を下げようとすると、なぜかそのまま椅子に座らされた。


「な、なんですか?」

「お前も一緒に帰るんだ」

「副社長、私は先に大奥様をご案内いたします」

そつのない笹野さんは言うが早いか、百合子さんとともに歩きだす。

創業者夫人は明るく一緒に帰りましょう、と言って先を歩きだす。


……どうしてこの人たちはこんなに唐突で強引なの? 

日野原家ってこういう家系なの? 

そもそも帰るのになんで椅子に座らされるの?


「いえ、電車で帰ります!」

「却下。そんな顔色のお前をひとりで帰せるわけないだろ」

「え?」

「体調が悪いんじゃないのか? さっき立ち上がった時、足元がふらついていただろ」


そう言って空いているほうの手を私の額に乗せる。

さり気ない仕草になぜが胸が詰まった。
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