俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「……少し人ごみに酔っただけです」


なんでわかったの? 

さっきまで一緒にいた百合子さんにさえ気づかれなかったのに。

どうして今、来たばかりのあなたが気づくの?

だから今、椅子に座らせたの?


「荷物もあるし、具合の悪いお前をこのまま帰すわけないだろ。それにこの展開を俺は喜んでいるが? まさか祖母とお前が知り合いだったとはな」

「よ、喜ぶって……」

「お前とはまだ話したかったからな」

私は話したくありません、と心の中で突っぱねる。


「とにかく話の続きはここを離れてからだな、ほら」

そう言って彼は私の膝の上に荷物を乗せた。

それらをギュッと両手で握りしめる。


「ありがとうございます……」

「礼はいい。じゃあ行くぞ」

そう言って、彼は私の背中と膝裏に手を添えた。

次の瞬間、身体が浮遊感に包まれる。

私は副社長に横抱きに抱えられていた。


「ふ、副社長! 下ろしてください、歩けます!」

悲鳴に近い声が漏れる。


ちょっと待って、なんで私抱えられてるの!?


いわゆるお姫様抱っこ状態に理解が追い付かない。

「重いですし、本当に下ろしてください!」

「体調の悪いお前を歩かせるわけないだろ。それに重くない。むしろ軽いな。詠菜、ちゃんと食べてるのか?」

「食べてますよ。それよりも周囲に見られてますっ」

「それはお前が騒ぐからだろう。落とされたくなかったらおとなしくしてろ」

「こんな姿を見られて誰かに誤解されたらどうするんですか?」
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